第1章-10:悪い連鎖

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第1章-10:悪い連鎖

 街の外で台車を引いて待っていたリナと合流した。彼女の腕を取って、俺は言った。 「クラウスを追うぞ!」  だが、彼女は(がん)として動かない。 「シリウスを復活させないとやばいんじゃないの?」 「だって、クラウスが!」  俺にとってはあいつのことも心配だ。もちろん、魔王のことも気がかりだ。次から次へと災難がやってきて俺を苦しめる。リナが優しい眼で俺を(のぞ)き込んだ。 「多くの問題に直面したら優先順位をつけて上から一個ずつ焦らずに片づければいいのよ」  街を遠ざかっていくクラウスの背中を見送って、俺はリナと共に最果ての火山を目指すことを決めた。魔王の逆鱗(げきりん)に触れれば、何もかもが終わりだ。  最果ての山への最短ルートはシルディア軍が後処理に人を出しているため使えない。俺たちは北西にあるホロヴィッツという街を経由することにした。    ***  石(づく)りの街・ホロヴィッツ。  シルディア王が竜退治の槍(ドラゴンスレイヤー)を作る鍛冶屋がいると言っていた場所だ。街を探索していたリナが黒い仮面を片手に戻ってきた。 「はい。これつけてればきっと顔がバレることはないわ。さ、行こう」  台車を引こうとするリナを呼び止める。 「リナ、ありがとう。俺(ひと)りだったらどうなっていたか分からない。助かったよ」 「()れないでよ?」  おどけてみせるリナを小突いて、街を抜けるために歩き出した。 「選定される勇者が決まったぞ!」  街の広場に人だかりができていた。掲示板にはまだあどけなさの残る少女の似顔絵と「エミリア・バルタザール」の名が貼り出されている。野次馬が話しているのが聞こえた。 「最近、黒竜が姿を現わすようになったから、勇者選定の()が行われるのは当然だな」  俺が黒竜を蹴散らしたせいで奴らがこの近辺までやって来るようになったのだ。それで、あんな小さな女の子が駆り出されることに……。  掲示板のそばで泣き崩れる大男がいた。 「ああ……、エミリア! どうして!」  少女の父親らしい。彼を慰めるようにそばに人が集まっていた。俺の顔を見たリナが心配そうに目を細めた。 「ねえ、変なこと考えないでよ? ただでさえやらなきゃいけないことがあるんだから」    ***  ホロヴィッツはこの街の領主の名でもある。俺は制止するリナを連れて領主の館にやって来ていた。もう俺のせいで誰かを悲劇に巻き込むのは嫌だった。 「それで? 勇者選定の儀を中止しろと?」ホロヴィッツは尊大な態度で俺に訊き返した。「いきなり現れた仮面の男が何を言う?」 「なら、戦える人間を選べ。あれじゃまるで生贄(いけにえ)だ」 「だからどうした?」  どうやらこの街じゃ、生贄を勇者と呼んでいるらしい。言い返そうとするが、領主の執事が足早にやって来て彼に耳打ちをした。 「表にある台車に死体が隠されていた。貴様ら、何者だ?」  俺の隣でリナが盛大に頭を抱えた。ホロヴィッツが叫ぶ。 「こいつらを(ろう)にぶち込め!」    ***  冷たい牢屋の壁に背をつけてリナと並んで座った。鉄格子の窓から街の喧騒(けんそう)がこぼれる。 「見張りがいなくなったら壁を破壊して脱獄する。それまで休んでろ」 「考え直してよ。あんた、今まで自分がやったことが(のち)に悪影響をもたらしてるって気づいてないの? 今は落ち着いて状況を整理して対策を練らないと……」  街の方では勇者選定の儀が始まったようだった。なのに、俺は何もできないままだ。  だが、突然街の方で多くの悲鳴が上がった。何が起こったのか耳を澄ませていると、牢獄の入口の方で見張りが倒れる音がした。 「お前たちがシリウスを殺したのか?」  赤い髪の男が気絶したエミリアを抱えて現れた。  なぜシリウスの名を?  なぜエミリアを抱えている?  こいつは誰なんだ?  それを()くより前に、意識が飛んだ。
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