第1章-5:殺人犯と異世界転生

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第1章-5:殺人犯と異世界転生

 シリウスは人には見せられないほど無残な姿になっていた。戦いの最中(さなか)、お互いの透明の指輪は壊れてしまったようだ。  街の方から防衛軍が音を聞きつけて近づいてきたので、俺は慌ててシリウスの死体を引きずって近くの森へ逃げ込んだ。  やばいことになった。  曲がりなりにも魔王の手下を殺してしまったのだ。バレたら俺は終わる。すぐにシリウスの死体を森の中に埋めた。季節が巡って、ここに綺麗な花が咲けばいいな。  考えろ。シリウスの死を隠蔽(いんぺい)する方法を考えろ。このままでは俺は魔王に殺される。今度は街の人間も葬式をやってくれないぞ。  ……そうか。その手があった。    ***  夜になるのを待って、俺は街の一角にある墓地にやって来た。スコップを片手に。自分の墓を探して、土を掘る。汗だくになって棺に辿り着く。急いで中に横たわる俺の死体を引きずり出した。  まさか自分の死体を掘り起こすことになるとは……。今日は死体記念日だ。  魔王は魔法で俺の身体を作り出した。俺の死体を調べ上げ、魔法を分析すれば、シリウスの身体を作ることができるかもしれない。  俺の死体を教会の方へ運ぶ。ここには俺が子どもの頃に遊び場にしていた地下墓地がある。今は使われていないから安全だ。    ***  夜明け前に魔王が俺の身体を作った方法は分かった。死霊魔術師(ネクロマンサー)みたいだな、今の俺。  結局、シリウスの魂を作り出す方法は分からずじまいだ。そこで俺は結論を導き出した。  シリウスは魔物に殺されたことにしよう。  四天王を殺せるほどの魔物を探して、シリウスの死体を放置してくれば万事解決だ。  昼前にシリウスの身体ができあがる。俺の身体についていた奴の血が役に立った。  そこで気づく。俺はこいつの死体を担いで魔物を見繕(みつくろ)いに行かなきゃいけないのか?  仲間が必要だ。  だが、誰が俺に力を貸してくれる? この街にも魔王城にもそんな奴はいない……。  こうなりゃ、異世界から召喚するしかない。    ***  本来、召喚魔法は異世界から悪魔を呼び出す禁術だった。それがカスタマイズされ、一部の魔法精通者(マジックマスター)が合法的に使い出した。  シリウスの死体と共にシルディアの街を出て、召喚魔法を行うのに必要な開けた場所までやって来た。  早速、陣を描いて呪文を唱える。  光の帯が陣の周囲を渦巻いて、雷が落ちた。  (まばゆ)い光が去って、煙の中に人影が現れる。ビシッとした服に身を包んだ黒髪ショートカットの女だ。 「ここは……?!」  彼女は辺りを見回して怯えたような声を漏らした。無理もない。この魔法で異世界から強制的に呼び出されたのだから。 「私、家に帰る途中だったんだけど! ケーキ楽しみにしてたのに、バカ!」  うるさい女だ。説明してやらねば。 「ここはシルディア、この世界では──」 「え、待って! 私ここ来たことある気がするんだけど」 「いや、話を聞け──」 「ねえ、魔王いるでしょ、魔王! 私、どっかの街で勇者にされた気がするんだけど」 「お前、本当にここにいたのか? 名前はなんと言うんだ?」  女は今気づいたように俺を睨みつけた。 「まさか、あんたが私をここに呼んだの?」 「説明が省けるのは手っ取り(ばや)──」  女は俺に飛び掛かってきた。 「せっかく仕事順調で良い恋愛してたのに、あんたに選ばれたせいで向こうで死んじゃったじゃん! ふざけないでよ!」  女はそのまま泣き崩れた。忙しい奴だ。 「お前、名前は?」 「リナぁ~……」  リナが泣きながら答える。とりあえず慰めようとすると、転がしておいたシリウスの身体に彼女の目が向けられた。 「いやぁっ! 人殺しぃっ!」  俺は溜息をついた。先が思いやられる……。
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