第1章-8:行き当たりばったり

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第1章-8:行き当たりばったり

「どうしよう、急に散歩行った?」  リナが我を忘れている。隠していたシリウスが消えたのだから、無理もない。 「落ち着け。そんなはずない」 「だってさぁ……!」  リナはその場に泣き崩れた。俺は辺りを探すが、どこにもシリウスの身体はない。 「あのおじさんの仕業(しわざ)かな?」  リナが言っているのはセバスチャンのことだ。 「もしそうだったら、何か言われるだろ」 「私の肩の髪の毛に気づいてたじゃん!」  もし気づかれていれば、魔王城の方が騒がしくなるはずだが、そんな気配は一切ない。 「私、もう一回探してみる!」  走り出そうとする彼女を引き留める。こうなりゃ力ずくで今の状況を打破するしかない。 「待て、シリウスの身体は魂が入らなきゃ意味がない。もう一度奴の身体を作って、最果ての火山に行けばいい。シリウスの身体を探すより、そっちの方が手っ取り早いだろ」  リナは目をパチクリさせる。 「あんた意外と頭の回転速いわね。私がいた世界の会社でもきっとやっていけたわよ」 「それに、お前のその服装は目立つから、街で色々と揃えるといい」    ***  世界の半分を知る旅に出るはずなのに、俺はシルディアと魔王城を往復してばかりだ。  小遣(こづか)いを渡していたリナがようやく普通の格好になって教会の地下墓地に帰ってきた。 「どう? 似合ってる?♡」 「もともとこの世界にいたんだから確認する必要ないだろ。で、必要な物も買って来たんだろうな?」  リナは口を尖らせる。 「ちぇっ。まあいいわ。世界の四分の一は私のものなんだし。頼まれてたやつ買ってきたよ」  リナは台車に()せた素材をどさりと下ろした。どれもシリウスの身体を作るのに必要な素材だ。 「そういえば、私がいた世界でも人間を作る材料がなんとかかんとか~っていう漫画があったわね」 「そっちでも魔法を使ってたのか?」 「魔法使ってる人はいなかったけど、この世界みたいな所を舞台にしたアニメがあった」 「よく分からんが、今からシリウスの身体を作る。出来上がったらすぐに最果ての火山に向けて出発だから、少しでも寝ておけよ」 「こんな不気味な場所で寝るの?」 「別にお前は宿屋で寝てもいいんだぞ」 「ふ~ん。でもまあ、あんた独りぼっちみたいだし、このリナちゃんが一緒に居てあげてもいいわよ」 「うるさい。早く寝ろ」 「エッチなことしないでよ?」 「早く寝ろ!」    ***  翌日、出来上がったシリウスの身体を布に(くる)んで台車に載せ、朝靄(あさもや)に紛れるように街を出た。 「最果ての火山なら北の山を抜けた方が早い。行くぞ」 「えっ? 街の人が北の山は黒竜がいるからやばいって言ってたわよ」 「黒竜は俺がボコボコにしたからいいんだ」  渋るリナを引き連れて北の山に差し掛かると、何やら騒がしい。無数の黒竜が空を覆い尽くしていた。見慣れた紋章をつけた軍隊が地上で応戦しているのが見えた。 「ねえ、あれシルディアの紋章じゃない?」  あの兵力じゃここまで来るのは難しいと思っていたが、見くびっていたようだ。とはいうものの、黒竜の群れに軍隊は苦戦を強いられていて、犠牲者も多数出ていた。 「ねえ、早く助けないと!」  だが、俺が生きているとバレる危険性もある。躊躇していると、向こうで雄たけびが上がった。ひとりの男が孤軍奮闘していた。金髪碧眼(へきがん)の男……クラウスだった。 「あいつ、なんでこんな所にいるんだ!?」
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