魔法使いになる方法

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魔法使いになる方法

30歳まで童貞だと魔法使いになるらしい。 そんな話があったと思う。俺、須々木 正信(ススキ マサノブ)はそんな話を信じない29歳の童貞。人生に希望は持たず、ただ人並みに生きている。そんな俺にとって、誕生日は地獄である。年をとって嬉しいのは20歳までだった。 今日がその誕生日。ケーキも買わず、明日の仕事に備えて早く寝る。 しかし、神はそんな俺に奇跡を起こした。 俺は普通の会社勤め。いつも通り仕事をこなしていると、女性社員の話が聞こえてくる。 「ねぇ聞いた? 須々木さんこの間仕事でミスして、部長に怒られたらしいわよ」 「へぇ、それで? 」 「それが相当ショックだったのか、トイレの個室で泣いてたんだってぇ」 「えぇ? ウケるー。あ、本人あそこにいるよぉ? 」 「うわ、こっち見た! 知らないフリしよ」 こんなことは日常だ。あることないこと噂されては女性社員に笑われる。 しかし女性社員はまだマシ。もっと酷いのは部長だ。 「部長、このあいだの件なんですけど、部長に言われた通りに直してきました」 「ああ? どれ......」 ハゲの部長はメガネをかけて俺の資料に目を通す。すると、だんだん眉間にシワが寄ってくる。そして俺の資料をデスクに叩きつけて言った。 「こんな内容にしろといつ言ったんだ!! 俺は言ってないぞ!! 」 「え? いえしかし、部長はここをもう少し強調しろと......」 「うるさい!! いいか? 俺がルールなんだ。お前は俺の部下。だからお前は俺のルールに従う義務があるんだ!! わかったならこのカスみたいな資料を捨てて、新しく作り直せ!! 」 何度もデスクを叩いてパワハラまがいのことをする。そして直してくるとまた怒鳴られる。挙句の果てには、上層部に俺の評価を最低として報告しているらしい。 悔しい。悔しくてたまらない。これがあと何年も続くとなると心を病んでしまう。 親は息子の俺を出来損ないとし、家から追い出すように一人暮らしをさせた。他の兄弟は親からの仕送りで最初の生活が安定していたが、俺にはそれがなかった。 親父の葬式にも呼ばれなかった。呼ばなかったくせに、葬式に来なかった俺を家族全員で非難するのだ。 もういやだ。人生をやめてしまいたい。そんな俺にも誕生日がくる。 30歳ではいいことが起きるのを願おう。
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