魔法使いになった

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魔法使いになった

「んん......」 目覚ましの音で目が覚めた。ズルズルと重たい頭を引きずって布団から出る。 「飯......あぁやべ、買ってねぇ」 朝食はいつも前日に買っておいたおにぎり。のはずなのだが、誕生日に絶望していて忘れたみたいだ。 「サイッ......アクだ」 深くため息をつきながらつぶやく。 「飯がほしい......」 スマホを取ろうとして机を見た。すると、思わぬ出来事が起きた。 「あっれ? おにぎりあんじゃん」 ないはずのおにぎりがあるのだ。 「ラッキー」 特に何も思わずそれを平らげ、せっせと身支度を始めた。 「あ! クソ、シャツにアイロンかけんの忘れたぁ」 これまた忘れる。先ほどと理由は同じである。そしてまたつぶやく。 「クソぉシワ伸びてくれぇ」 シワがついているシャツにアイロンをかけるつもりで撫でた。すると 「あえ......伸びてる」 見るとシャツはアイロンかけたてのような見た目をしていた。 「んん? おっかしぃなぁ......」 おにぎりといいシャツといい、自分の思い通りになりすぎる。おかしいと思っていたが、仕事に遅れてしまうので急いで支度をした。 -会社- 「さてと......」 朝礼を終え、自分のデスクに向かった。朝に起きた不思議な出来事など、もう忘れていた。 「......ふぅ」 一区切りついて背伸びをした。すると一気に眠気が襲ってきた。 「うへぇ、ねみぃ......」 俺はまた願った。 「コーヒー飲みてぇ」 次の瞬間、俺はデスクのガタンッという音に驚いた。 「うえ! なんだぁ? 」 どうやら引き出しから鳴ったらしい。恐る恐る中を見てみると、そこには手のひらサイズの缶コーヒーが入っていた。 「ウソ......」 手にとってみても普通のコーヒーだ。しかもこの時期に合わせてほんのり温かい。 「スゲェ......」 俺は自分の両手を見た。そこで、あの迷信を思い出した。 『30歳まで童貞だと魔法使いになれる』 「......」 やがて、お茶を淹れている女性社員二人の会話が聞こえてきた。 「ねぇこの前須々木さんの話したじゃない? あの人って彼女できたことないんだって! 」 「えぇ!? まあ当たり前か」 クスクスと笑う女性社員。 「やれるかもな」 俺は自分を信じて、願った。 「あの二人は転んで熱々のお茶をお互いにかける」 女性社員たちはその場から離れていこうとした。しかし、二人とも同じタイミングで転んで、淹れたての熱々なお茶をお互いでかけあってしまった。 「ぶわぁあああ熱い!! 」 「ギャーーー目に入った!! 」 「プッ、クク......」 大声であざ笑いたいところではあるが、我慢をして二人の元へ駆け寄った。あくまで心配そうに。 「ダイジョブですか? 火傷しました? ハンカチいりますか? 」 「え? ああ、すみませんありがとうございます......」 「いえいえ」 俺は爽やかに笑ってデスクに戻った。いやしかし、あの二人の顔は滑稽であった。先ほどまで自分たちが悪口を言っていた人物が自分たちを助けてくれた。申し訳無さで溢れていた。 「これは、使えるぞ! 」 次のターゲットは部長だ。完成した資料を持って部長に提出しに行った。 「部長、前の資料なんですが、言われたとおりに作り直してきました」 「また来たのか、ふん......」 部長は資料を読み始める。すると先日のように眉間にシワを寄せて、資料をゴミ箱に投げ入れた。 「またこんなわかりにくい資料を作りやがって!! 俺の部署の評判を下げたいのか!? 」 俺は心の中でニヤリと笑った。 「そういうと思って、もっと簡略化したものもあります」 「んあ!? 見せろ! 」 俺が差し出した資料を奪い取るように乱雑に手に取った部長。するとまた眉間にシワを寄せた。 「こんなんじゃ伝わらんぞ!! 俺を舐めてるのか!? 」 そして俺はまた別の資料を差し出す。 「そういうと思って、一部を詳しく別紙にまとめたものも作りました」 「はぇ!? 」 部長は外しかけたメガネを震え気味な手でかけ直した。 「だ、だめだだめだ!! こんなものは認められん!! 」 「ではこちらはどうでしょうか? 」 「ぐ、ぐぐぐ......」 部長の焦りに焦りまくる表情。面白いが過ぎる。汗をタラタラと流しながら、部長は俺が次々に出す資料に血を吐きながら目を通した。 「も、もういい......最初の資料でいい。悪かった。もう許してくれ......」 「そういうわけにはいきません。部長の指示に沿った資料が見つかるまでは、僕たちは帰れませんよ」 「ひ、ひえぇ......」 こんな調子で部長がぶっ倒れるまで続けた。これで俺に嫌がらせをするやつは社内にはいなくなった。 あれもこれも、童貞を死守したおかげだ。 「今日は焼肉でも食べに行こっかなぁ」 ネクタイを緩めて繁華街をぶらつく俺。こうして見てみると世界はきれいだ。死のうと思っていた自分がバカらしい。 「ん? なんだあれ」 通りかかったのは繁華街の中でも暗い路地裏。そこでは、数人の男が若い女を囲んでいた。犯罪の匂いがする。 「これも魔法でいけるか」 俺はその現場に寄っていった。 「ああ? なんだおっさん」 「お楽しみ中なんだよ、すっこんでろ! 」 「いーや、女の子によってたかってる男を見逃せん」 「うるせぇおっさんだな。やっちまうぞ! 」 男たちは一気に襲いかかってきた。しかし、もう俺は魔法の使い方のコツを覚えつつある。 「ふん!! 」 男たちの重力だけ5倍になるイメージを浮かべて手をかざす。すると男たちは、イメージどおり自分の体重で地面を陥没させ、重さに耐えきれずに倒れた。 「グボハァッ!! 」 「ぐえぇなんだ、これ!! 」 「降参か!? 」 「こ、降参降参!! 参った、見逃してくれ!! 」 男たちの骨が折れる前に魔法を解除する。男たちは俺の横を走って逃げていった。 「君、ダイジョブか? あいつらになんかされたのか? 」 すると、女は俺を見て驚いて言った。 「あなた、人前で魔法を使ったの!? 」 「え? ダメなのか? 」 「ダメに決まってるでしょ!! 今ので今日何回目よ! 」 「えっと、5、6回ぐらい......」 「ああもうダメ......あいつらが来るわ!! 」 女は上を見た。つられて俺も上を見た。そこにいたのは
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