[Ep.001] 星の【開拓者】

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[Ep.001] 星の【開拓者】

「――それでは、今年の首席入学者のお言葉です!」  王立魔術高等学校、そこでは現在進行形で入学式が行われていた。  司会を任された卒業生の紹介で舞台を見守る観衆はみな固唾を飲む。  一挙手一投足に目を奪わす人の正体。それは――。 「……ご紹介に預かった、今年度主席のアリエス・ステラです。我々の先祖が成し遂げた偉業を私も成してみたいと思っています。  ――私についてくる勇気のある人は、是非私にお声かけください」  誰もいない暗がりで一人の少女は頭を抱え込む。 「あーやっちゃった……あんなこと言ったら誰も私に近づいてくれないって……」  少女――主席ことアリエス・ステラ――は哀愁満ちた表情を浮かべる。  アリエスの最大の欠点。それはコミュニケーション能力の圧倒的な欠乏である。  幼少期から≪星術≫の訓練と学問ばかりを収めてきたばかり、人との接し方をほとんど知らない箱入り娘になってしまっていた。  小等学校と中等学校では自分が持つ能力のせいで相手を委縮させてしまい、誰も好き好んで近づいてくるものはいなかった。  己に近づくのは両親と教授、そして自分の家の株を上げたいがためだけの醜い狼だけである。 「今年こそはお友達を作るつもりだったのに……っ」  印象最悪のスタートダッシュを切ってしまったことに後悔するアリエスは思いため息を吐きながら自分の配属された階級(クラス)に向かう。  彼女に与えられた階級はS。無論最高クラスである。  お友達、諦めなきゃ……。とそう言って、ゆっくり講義室の扉を開く。 「あ、主席さんだっ」 「お忙しそうですねぇ、主席」 「……そんな嫌味含んだ言い方されても労いが感じられないんだけれど」  彼女は隣で上がった声に反応しつつ、心中では驚愕していた。  思うよりも暖かい雰囲気で自分を迎え入れてくれたことが、アリエスにとっては何よりうれしいことだった。 「アリエス主席さん、ぶしつけな質問……いいですか?」 「な、内容によりけりかな」 「えっと、実力試験で出された能力実数値はどれほどだったんですか?」  一人のクラスメイトの問いにクラスメイト全員がその答えを待ち望む様子だった。 「……だいたい5桁中盤」 「詳細は!?」 「それは口外しないことにしてるから無理」 「なんでぇっ!?」  能力実数値とは≪星術≫によって起こされた現実改変の威力のようなものを部門ごとで計算して算出した数値のことだ。  ≪星術≫が攻撃に恵まれればそのまま攻撃したときの威力で算出する。  自身へのバフ付与が得意なら素体の身体能力からの上昇分で算出する。  アリエスの持つ≪星術≫は攻撃に振られた能力だ。  ≪星術≫に宿る願いは、打開と開拓。  己の持つ最大の力でさえ突破できない壁を命を賭して打ち壊したい。そんな願いを具現化した≪星術≫をアリエスは持っていた。 「一応【牡羊座】の血族だから、いい結果出さないと勘当される可能性を持ってるから人一倍の力を得ないといけないんだよ」  堅苦しいのは大嫌いなんだけどな、と彼女は言う。  原初の≪星術≫使いの一人、【牡羊座の聖騎士】の血を色濃く受け継ぐ彼女は家族から実力だけを見られてきた。  自分の家のため、自分の名誉のため、と軽々と子供を掌で躍らせ続ける親に嫌悪を示せば勘当させられる世界。  自由気ままを好むアリエスにとって己の家庭環境はストレスの火種であった。 「はいはい、さっさと席付けお前らー……ってもう座ってんのか」  律儀に講義開始数分前から着席するクラスメイトを見て一瞬呆然とする教師。 「今からHRなんだが、今日授業ないんだ」  教師がそう告げると教室内は二種類の声が飛んだ。  一つは授業がないことを無邪気に喜ぶ声。  もう一つは授業がないことを惜しむ声。  無論、前者が圧倒的なのだが。 「だが午前中は学校にいてもらうからな?学校内の案内とかをしてもらわないと迷子になるだろうからな」 「その前に、先生の自己紹介をしてくれないですか?」  一人がそう言う。 「あぁ、そうだな……  俺はグレス・イルヴェスだ。一応魔法師団の副団長をしている」  教師……否、グレスがそう言うと数人は顔を引きつらせ、それ以外の者は感嘆を顔一面に映し出していた。 「俺の自己紹介は別になんだっていいだろ。それよりも……」  グレスは一度咳ばらいをし、話を切り返す。 「お前ら自身で交流会的なことしてくれよ」
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