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「――さて、そろそろ切り上げていいか?」
グレスが切り上げを宣言し、教室は喧噪が嘘のように走り去った。
「各々じっくりと話し合えた様子だが、今からは各自単独行動してもらう」
「……よしっ」
班の私に対する熱気にのぼせかけていたアリエスは小声で叫び、拳を握る。
「単独行動とは言え、数人は先輩方とともに行動してもらうからな?」
せいぜい成績が危ない側の人達に着くのだろう、とアリエスは高を括り心待ちにする時がくるのをまたぼーっとしながら待ち惚けた。
「それじゃあよろしく」
「……はい、よろしくお願いします」
アリエスの表情は壇上に上がった時と同じような暗さを帯びていた。
グレスは下層のクラスメイトを先輩と一緒にさせる……なんてことはさせず。
上位層とともに行動させ、お互い切磋琢磨し合えるような関係を築き上げてほしいということらしい。
「どうしたの?もしかして具合悪い?」
「い、いえ……別に体調は悪くないのですが……」
周りをちらっと見てアリエスは小さくため息を吐きながら、
「周辺の女子の人たちにあり得ないくらい怨嗟がこもった視線を浴びせられてるので」
とつげた。
グレス曰く、アリエスにつけた先輩は現3年生の元主席、ロイド・アルファンスという名で、数多の女性をオとす校内一のモテ男子である。
生憎アリエスのタイプでないが。
「あはは……正直人に好かれやすいタイプだからね、気になるんだったらここから早急に離れようか?」
「いえ、別に。私が気にしなければいいだけなので」
さっさと先輩を振りほどいて一人でのんびり学校探検をしたいアリエスは素っ気なくロイドをあしらう。
ロイドは一瞬不思議そうな表情を浮かべたのちに何かを理解した顔へと変わった。
「ふっ……じ、じゃあ行こうか」
「何に対して笑ったんです?答えて頂かないとずっと問い詰めますからね?」
「じゃあそれでいいよ。どうせ、そうなるんだし」
アリエスは隣に立つ先輩のうさん臭さを懐疑的に思いつつ、言われた通り共に行動を始めた。
「――これで大体の教室は回ったけど、配置はなんとなく覚えた?」
「えぇ。少なくとも長時間迷うことはなくなったと思う」
ロイド先輩と校内を歩き回ること小一時間。軽く談笑を交えながら歩いていたことでさらに観衆から怨嗟の籠った視線が送られるようになってしまった。
自分にとっての不幸の象徴じゃん、と心中で思う。
「さて、校内も廻ったことだし……」
ロイド先輩はアリエスの手を掴み、引っ張った。
「軽い運動、しにいこっか?」
「え、いやですけど――」
アリエスは申し出をきっぱりと断る。だが、ロイド先輩はその声を聴く耳を持つ様子はなかった。
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