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[Ep.002] アリエスのシンカ
「あ、がはっ……」
突如右腕が切り取られる。
アリエスは痛みに悶えながら呆然としていた。
自分が強いと言わないが、ある程度の実力があることは自負している。だが、そんな自分の目で、切られたことが認識できなかった。
『――まったく、これだから人間如きは』
「だれ、なの……っ」
『まだ無駄口をたたく余力があるようですね。先ほど私から敵前逃亡した方』
その文言に何かが引っかかった。
敵前逃亡をした?こんな能力を持った人間に会ったこともないし、まして戦ったことはない。
だけど、アリエスは確信していた。
この人型の実態は、双頭黒丑だと。
『私もこの姿は少々不本意でしてね。この姿だと能力が使えるんですよね』
「ま、もの……が能力、を?」
『魔物だからできないと思われたら心外ですね。現に魔物の私に勝てていないのですから』
「あがっ!?」
わき腹を蹴られた挙句、切られた腕の断面に指を差し込む。
アリエスは喉がはち切れんばかりの絶叫を上げた。
『喚かないでくださいよ。今あなたの能力をもらおうとしてるんですから』
「――!?!?」
執事風の男(双頭黒丑)のその言葉にアリエスは目を丸くした。
『魔物がなぜ強いか……いえ、何故人間が弱くなったかわからないご様子で?』
そう問いかけられるが、アリエスは口を開くことはなかった。
解は知らないし、知っていても答える体力がない。
『神々は私たちに力を与えた。
人間に迫害されていた我らを見て慈悲深い神が御力を分けてくれたのだろう。とある時から魔物は例外なく能力を奪えるようになったのです。無論、それで一時期戦争が起きましたけど』
知った口調で話す執事風の男はどうしても気に食わなかった。
自分をここまで痛めつけた癖に対する己は余裕綽綽と御託を並べる。
煽りたいだけだとわかっていても腹の虫の居所が悪いことに変わりがなかった。
「だ、まれ……」
『ほう、まだ喋れるんですか。なら、楽に済ませてあげましょう。
――眠りなさい』
双頭黒丑はいとも簡単にアリエスの首を引き裂いた。
アリエスの世界は、終わった。
私はただただ真っ白い部屋にいた。
それはまるで病院の様で――。
「あれ、なんで意識があるんだっ!?」
”そりゃ、勝手に死んでもらっちゃ困るわけだし”
「え、誰!?」
突然頭に響いた女性の声に肩を跳ねさせる。
”私は・・・・・・。この・・・・の二次統括者だね”
「え、今なんて――」
私が姿も見えない女性に訪ねようとしたとき、
なぜか、体が透け始めた。
「な、なんで体が透けてるのっ!?」
”あー、時間がないみたいだねぇ……”
「呑気に話さないでください!」
”ごめんごめん。じゃあ本題に入ろうか”
今までの明るい声色とは違い、安定感を不意に感じるハスキーボイスに謎の女性は変えた。
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