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”君は、あの世界でまだ生きていたいかい?”
「もちろんです!」
”それはそうだろうね。君は今の実力からそのまま成長しても将来有望な一つの星だろう。だが――”
女性は一間おき、
”君は今、死の淵に立たされている”
「っ……ならなんで私は今ここに……」
”それは私が魂をそのままこっちに抜き出したからだよ。肉体は、ちょっと目にしがたい状態だし”
それもそうか。私の今の体は腕が消し飛んでるんだもんな。
”とりあえず君の願いは聞き届けたい。だから、一つ契約を結ばないかい?”
「契約……ですか」
”あぁ。無論君が嫌がるような条件にはしない”
私はもう流されるままなってしまえ、と思いながら話しを聞くのだった。
”――おーい、聞いてる?”
「ふへ、はい……」
”その様子じゃ片手間で聞いてた感じだね……。ちゃんと聞いてよ”
女性はわざとらしい言いぐさで私を責める。少し申し訳なさも感じつつも何故か面白おかしく感じた。
”それじゃあ、現実に戻ろうか。
ちょっとだけ、君にここで留守番してもらってから……だけどね?”
「はぁ……了解です」
しっかり聞いておけばよかった、と今更ながら私は後悔する。
それにしても、一体あの女性は誰だったのだろうか。
『――この霧、邪魔くさいですね』
執事風の男はアリエスから放たれた謎の光に退くや否や自分が仕掛けた霧放射器を作動させてしまい、現在に至っていた。
『さっさとあの女を殺して糧にしようと思っていたのだけれどなぁ……』
「へぇ、”私”のことを倒せる……だって?」
そうアリエスが――否、”私”が執事風の男の耳元でささやいてみると豆鉄砲を喰らった鳩のような表情を浮かべた。
見るからに滑稽だなぁ。
『な、お前なんで傷が全治してるんだ!?』
「それは企業秘密だよ。それと、君名前なに?今からちょっと本気で君に挑もうと思ってるんだけど」
『……オルティブ・デリヘスだ』
「なるほど。デリヘスって呼んだらいいのかな?」
『そうだな……だが、気軽に私の名前を呼ばないでいただきたい』
全身全霊の速度で”私”に攻撃をしようと飛んでくるデリヘス。だが、”私”はそれをすっ、と避ける。
また驚いてるその顔に能力を使う。
すると、デリヘルの顔面がはじけ飛んだ。
そして首から下が結晶化し、パキッという音を立てたと気づいたときには雲散霧消していた。
「ふっ、また詰まらぬものを木っ端微塵にしてしまった……」
”私”は自分に飛んでくる破片を薙ぎ払う。
一応借り物の体だ。傷つけては申し分がつかない。
「さて、そろそろ戻るか……」
”私”は一度座り込んで、目を閉じた――。
「……ん、あれ?」
アリエスがふっと目を開くとそこは岩肌が視界のすべてを占めていた。
そして立ち上がり見下げてみれば傷一つもない、ただ砂埃が散りばめられた肌と服。
「あれ、私たしか双頭黒丑に致命傷を負わされたはずじゃ……」
先ほど倒れてからの記憶は混濁していてうまく思いだせない。
アリエスは不思議に思いながらもさっさとその場を後にすることにした。
そして、学校に今回の件を伝えて今後課題以外では塔に近づかないことを決意した。
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