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「はぁ……」
アリエスは誰もいない講義室で大きくため息を吐く。
理由は単純。現在鬼ごっこの最中だからである。
――時は遡ること数時間前。
塔から戻ったアリエスは真っ先に職員室の扉を叩いた。
担任となったグレスに身辺で起きたことをありのまま伝えたら職員室全体が顎を外していた。
そして話し終わったのちに驚愕の声が上がった。
できれば内密にしてほしい、と言っておいたのだが数人の使えない教師は噂として学校中に広め廻ったため
『アリエスという生徒が学園の危機を救った英雄』
だとかいう噂の真偽を確かめるために私を捕まえようとする生徒が約全員。
そう、全員なのである。
「面倒なことになった……」
ただでさえ主席という肩書の上に英雄という堅苦しいものが加わればお友達ができなくなってしまう。
そう考えたアリエスはどうにか噂をかき消そうと思うが、逆に妄信してる生徒はただの謙遜としか感じないだろう。
アリエス自身が出向けば、火にそそぐのは水であり油。実質ドレッシングで火を消しに行くようなものだ。
実質選択肢は一つ。自然消火を待つのみだ。
「……訓練塔が使えたら」
適当な暇つぶしクラにはなるだろう訓練塔は調査のために数週間は立ち入りを禁止された。
あとは能力を鍛えるのにも自身の能力の性質上できやしない。
「久しぶりに趣味しようかなぁ……」
学生になってから人前で見せることのなくなった、いや忙しすぎて見せる暇もなかったアリエスの趣味。
それは、執筆だった。
なぜか物心がつく頃から物語を紡いできた気分がある。
中等学校の時にそのせいでペアをどれだけ困らせてしまったことだったろうか。
自分のいる世界をもととした作品はどうもだ。
描画しがたい謎の抵抗感に襲われてしまう。
だからこそ、アリエスは純粋な恋愛モノをよく書く。
「……さすがに集中してるところを邪魔するようなこと、しないよね」
集中しているところを邪魔する人間はどうも好けない。
どうせアリエスから集中時にのみ放たれる謎の圧で近寄ることさえままならないだろうが。
そんな雑念を頭の端からも捨て去り、自分の書き進めた物語の世界へ身を投じこむ。
――アリエスが完全に集中しだしてから数時間後。
けたたましくなった警報音のようなチャイムにアリエスの精神は自身の体へ強制的に引き戻された。
「な、なにごと!?」
これでもこの学校については調べつくしたが、こんなチャイムがなったことは学園の歴史の中でさえ事例が極端に少ない。
つまり、現在進行形でこの場所で異常事態が発生している。
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