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真実の愛を見つけられる薬
「お世話になります、アレン公爵さま」
「いらっしゃい、セーラ嬢」
「ようこそ、我が家へ。セーラさまなら大歓迎ですわ」
「まぁ、ルル。お久しぶり。歓迎してくれて嬉しいわ」
「ふふふ。どのくらいの期間になるか分かりませんけど、愉しみましょうね。セーラさま」
「ええ。そうしましょう。ルルの青い髪を撫でられる日々なんて、楽しいに決まってますわ」
「嬉しい、セーラさま」
「あぁん。リリーもまぜて」
「ふふふ。リリーの淡いピンクの髪も、毎日撫でたいですわ」
「わぁ~い」
「こらこら、お前たち。そんなにたかったらセーラ嬢が疲れてしまうよ」
「そうですわね。セーラさま。まずは応接室のソファーへどうぞ」
「ありがとう」
「いつまでいらっしゃるの? 楽しみですわ」
「ふふ。リリー。それは、アレン公爵さまの開発した薬の効果次第ですわ」
「おとうさまの開発した薬?」
「ええ。素敵な薬を開発されたのよ」
「真実の愛を見つけられる薬、でしたっけ?」
「そうなのよ、ルル。わたくし、真実の愛を見つけたくて」
「ははっ。セーラ嬢はロマンチストだから」
「もう、アレン公爵さまったらっ。そんな風に言わないでくださいませ」
「ははっ。真実の愛を見つけられるといいですね」
「そうなのです。真実の愛が見つけられるといいのですが。……まさか聖女の力を失うとは、思ってもみませんでしたわ」
「まぁ、薬の影響だと思いますので。真実の愛を見つけられるか、薬を止めるかすれば、聖女の力は戻ると思いますよ」
「意外と気軽になくせるのね? 聖女の力って」
「ルル。鋭いね」
「お父さま。本当に大丈夫ですの? 聖女の力が失われたら大変ですわよ?」
「それは多分、大丈夫」
「あら、お父さま。ニヤニヤして。イヤな感じですわ」
「ルル。お父さまに酷いことを言うね」
「私、セーラさまがセリウス公爵家に引っ越して来られたのは嬉しいのですけど。このまま聖女の力が戻らなかったら、と、思うと不安ですわ」
「ルル。考え過ぎだよ。聖女の力が戻らない、ということは、セーラ嬢の真実の愛が見つからない、ということだからね。それではセーラ嬢が可哀想だ」
「ええ。真実の愛を見つけられなかったら。わたくし、可哀想なことになってしまいますわ」
「ああぁっ。ごめんなさい、セーラさま。私、無神経でしたわ」
「そうよ、ルルおねえさま。セーラおねえさまは、素晴らしい女性なのですもの。真実の愛が見つからないわけがないですわ」
「ありがとう、リリー」
「ははっ。リリーは、まだ幼いからな。真実の愛を見つけられるかどうかと、本人の素晴らしさは必ずしも一致しないよ」
「お父さまッ。そんな事を言っては……」
「もちろん、セーラ嬢には、真実の愛が見つかるさ。ルル。それは保証する」
「まぁ、保証してくださいますの?」
「はは。セーラ嬢。何も心配はいりません。真実の愛が見つかるまで、我が家でゆっくりしていって下さいな」
「ありがとうございます」
「そうよね、セーラさまは5歳から聖女としてのお役目で忙しかったのですもの。少し骨休めの期間があっても良いはずですわ」
「ふふ。ありがとう、ルル」
「今まで忙しかった分、一緒に楽しみましょうね」
「私もいっしょですわよ、セーラおねえさま」
「そうね、リリー」
「我々の開発した薬の効果は、一時的なものだ。その間、聖女の力を失っているとしても、他にも聖女さまはいらっしゃるのだから問題ない。神殿の方とは話が付いている。セーラ嬢は、真実の愛を見つけることに集中してください」
「そうね……真実の愛……王太子殿下との間には、なかったようですわ」
「まだ、そうと決まったわけじゃありませんよ」
「そうかしら?」
「セーラおねえさま、元気だして?」
「ああ、リリー。ありがとう。あなた、なんでそんなにカワイイのー⁈」
「あぁん。セーラおねえさま。苦しいですぅ」
「あらあら、うふふ。私の可愛い妹を絞め落とそうとするの、やめてね?」
「そんなつもりはないわよっ。もう、ルルってば。誤解を招くような事をいわないで」
「ははは。みんな仲良しでいいねぇ~」
「お父さまは、のんき過ぎると思いますわ」
「ルルってば手厳しい」
「お父さま、早くセーラさまの真実の愛のお相手が見つかるようにしてくださいませ」
「鋭意努力するよ」
「真実の愛のお相手を見つけるには、何か条件がありますの?」
「特にはないけれど……同じ薬を服用している相手のほうが見つけやすいと思うよ」
「あら、では被験者のなかにめぼしい方がいないか、調べたほうが良いですわね?」
「そうだね、ルル。ちょっとリストをチェックしてみようか……」
「私たちに見せてくれたら、探すのお手伝いできますわ」
「そうもいかないよ、ルル。こういうものは守秘義務があるからね」
「しゅひぎむ……」
「そうだよ、リリー。お父さまのお仕事は秘密が多いからね。服用している薬のことを他人にベラベラ話されたら嫌だろう? 仕事上知ったことは秘密にしておいたほうが良い。特に個人情報については、ね」
「そうなんだ……でも……私も、ルルおねえさまも、セーラおねえさまがお薬飲んだことを知ってるわ」
「そうよね? それはいいの?」
「ふふ。それはいいのよ。わたくしが話したのだから」
「そうなんだ」
「でも、他の方には内緒にしておいてね。リリー」
「わかりました、セーラおねえさま」
「ここまでしているのだから、真実の愛が早く見つかるといいのだけれど」
「そうですね、セーラさま」
「おや……珍しい名前があるね……」
「どうかなさいましたか?」
「いや、セーラ嬢。別にどうということでもないが……」
「お父さま、ニヤニヤして気持ち悪いですわ」
「ルル……気持ち悪いはないだろう……」
「おとうさま、きもちわるい」
「リリー? そういうの真似っこしちゃダメな?」
「でも、お父さまの様子がおかしいのは真実ですわ」
「そうね、ルル。アレン公爵さまは、どうなさったのかしらね……」
「それは今後のお楽しみという所だね……それより、我が家にいる間にどんなことをしてみたいですか? セーラ嬢。せっかくの機会ですから、なるべく希望が叶えられるようにしますよ」
「えっ? いいのですか? アレン公爵さま」
「もちろんですよ、セーラ嬢。聖女としてのお仕事はもちろん、王妃教育も大変だったのでしょう? 今まで頑張ったのですから、その分、存分に楽しんで欲しいのです」
「ありがとうございます、アレン公爵さま」
「私たちも、セーラさまと一緒に楽しみたいですわ」
「私、セーラおねえさまと一緒にお出掛けがしたいです」
「あら、リリー。どこに行きたいのかしら?」
「王都のステキなカフェとか。カワイイ雑貨屋さんとか、行きたいです」
「あら、それいいわね、リリー。ルルは、何か希望があるかしら?」
「私は観劇などご一緒したいですわ。見た後も盛り上がれるようなものを見に行きたいです」
「それも楽しそうね」
「それなら私、おススメを知っていましてよ。男性ばかりで行うお芝居なのですけど……」
「男性ばかりという事は、戦いの物語か何かかしら?」
「いえいえ。男性ばかりといっても、女性の役もあるのです」
「あら? でも、男性しか出ないのでしょう?」
「男性が女性も演じるのです」
「まぁ。それは……ちょっとどうかしら?」
「いえいえ、勘違いなさらないでくださいまし、セーラさま。男性が女性を演じるといっても、お鬚の生えた女性が出てくるお芝居ではありませんわ。男性が美しい女性に化けて出てくるお芝居ですの」
「え? 男性が美しい女性に?」
「そうなのですよ。男性とは思えない美しい女性が出てくるお芝居なのです。いま王都で話題になっていますわ」
「それは、わたくしも興味がありますわ。是非、見に行きましょう」
「はいっ」
「そのついでに、ステキなカフェに寄るのも良いわよね」
「あぁ、それステキです。セーラおねえさま」
「セーラ嬢の滞在が思っているよりも短くなる可能性もあることだし。今を存分に楽しみなさい」
「ありがとう、お父さま」
「お父さま、大好き」
「ありがとうございます、アレン公爵さま」
アレン公爵さまは不思議なことをおっしゃるのね、と、わたくしが感じた疑問は、ほどなく解明されることになるのです。
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