脇役達に花束を

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脇役達に花束を

 これは、私が小学校の教師をやっていた頃の話。  二月頃にもなると、河津桜をはじめとした一部の早咲きの桜は咲き始めることになる。うちの小学校の近所にも、河津桜が綺麗な公園があるのだった。そのため、二月頃にはなるともうお花見シーズンに入ってくるのである。  三月以降にもなれば、今度は学校に植わっている方の桜も見頃を迎える。この近隣は、種類の違う桜が長く楽しめる地域としても有名だった。 「みんなも二年生になったので知っていると思いますが」  うちの小学校の伝統行事。  二月の半ばに、少し早いお花見を道徳の授業の一環で行うのである。これは、タイミングをずらして一年生から六年生まで行う行事だった。お花見を通して、友達と遊ぶことや楽しい企画を練ることを学んでもらおうというものだった。お花見の時はクラスみんなでちょっとしたゲームをやることになっている。先生もフォローはするが、何のゲームをやるのか、どんな手順で行うのかなどは全て子供達自身で話し合って決めてもらうのだ。  私はこの前の年は一年生の担任だった。  一年生だと、どうしても話し合いにまとまりがない。まだまだリーダーシップを取れる子も多くはなしい、学校生活に慣れていない子も少なくないからである。  しかし、二年生になると彼らは彼女らは格段に成長する。みんなを仕切るタイプの子、仲裁をする子、とにかく積極的に意見を出す子や同調する子。様々なタイプが出てきて、教師としても見ていて飽きないのだった。 ――今年は、誰がどんな企画を出すのかしら。楽しみだわ。  机で退屈な授業をやるよりも、お花見の方が好きと言う子は圧倒的多数に登るはずだ。実際、クラスの子の大半は、お花見を楽しみにしているようだぅた。  だから。 「先生!」  一人の少女が手を挙げた時、誰もが度肝を抜かれたのである。 「わたし、お花見したくありません。お花見を中止にしたいです」  そんなことを言い出す子がいるとは、思ってもみなかったのだから。  彼女の名前は佐藤美音(さとうみね)。クラスでも、一際真面目で、優等生と言っても過言ではない生徒だった。
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