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まさかそんな意見が出てくるとは誰も思わず、誰もが唖然。
授業なんかよりお花見をしたい男の子たちと美音で、ついには喧嘩に発展してしまった。体の大きなガキ大将タイプの子に詰め寄られても、美音は厳しい目でただ首を横に振るばかり。何が何でもお花見をやめるべきだと主張する一方で、到底話し合いにならなかったのだった。
結局、その日はなんの企画も決まることなく。
放課後、お花見がやりたい男の子の一人が、私の机のところまで来て抗議して来たのだった。
「先生、あいつマジで困るよ!俺ら、お花見なくなってほしくねーんだけど!なんで反対してるのかわかんねー!そんなに普通の授業がしたいのかな」
「……そうね、どうしてなのかしら」
彼の疑問は尤もだ。確かに、美音はいつも誰より真面目に授業を受けているし、退屈そうな様子もない。座学もまったく苦にならないタイプなのは間違いないだろう。
しかし、自分の記憶が正しいのなら去年は普通にお花見会に参加していたはずだ。どうして今年になって心変わりをしたのか。自分が知る限りでは、去年のお花見で何かトラブルがあったという様子ではなさそうだが。
「お花見が嫌な理由があるのかもしれないわ。堺くん、何か知らない?」
お花見会は、この学校の伝統行事だ。うちのクラスだけやらないというわけにはいかないし、何より美音以外の生徒はみんな楽しみにしている様子である。彼女の希望だけで中止にすることなどできるはずがない。
と、ここまで考えて私は気がついた。美音は、“自分がお花見に参加したくない”ではなく“中止にしたい”と言い出したのだ。つまり、他の生徒も巻き込もうとしている。単にお花見がやりたくなだけなら、己だけ拒否権を発動すればいいはずなのに、一体なぜ?
「知らねー、あんなやつ!」
私にクレー厶を入れてきた堺慶希少年は、口を尖らせて言ったのだった。
「あ、でもあいつぼそぼそ言ってた気がする。桜が嫌いだからとかなんとか。なんで桜が嫌いなんだろうな?花粉症だから?」
「花粉症は、桜のせいじゃないと思うけど……」
「えー?じゃあ、わかんねー!」
慶希はあっさりと匙を投げた。ただ、桜が嫌いというのは新情報である。
桜が嫌いだから、お花見をしたくないのだろうか。そして、他の子にもお花見をしてほしくはないと?
ではどうして、桜が嫌いになったのだろう。あんなに綺麗なのに。
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