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その疑問は、意外なところで解けることになるのである。
翌日、私は職員室に向かう途中で廊下で話している美音とその友人達を目撃することになるのだった。美音は何やらどうしても気になることがあるらしく、友人たちに熱弁を振るっていたのである。
「わたし、桃太郎って嫌いなの!桃、ってお花は好きだし、名前はとっても素敵だけど、桃太郎は嫌い!」
「えー、美音ちゃんなんで?桃太郎って、昔話の主役でしょ?」
「主役って顔してるから嫌いなの!」
階段脇で話している彼女たちは、側にいる私には気づいていない様子だった。美音は、どうやら少しばかり怒っている様子である。何で桃太郎の話になったのだろうか。ひょっとしたら国語の教科書に桃太郎についての説明文が載っていたからかもしれない。そういえば、少し前に授業でやったような記憶があるが。
「桃太郎は、犬と猿と雉と一緒に鬼退治に行くでしょ?きびだんごをあげて三匹と仲間になるけど、だからって三匹が桃太郎の子分にならなきゃいけない理由なんてないと思うの。なんで、仲間になってくださいじゃ駄目なの?」
どうやら、美音はそれが許せなかったらしい。最近の若者らしい疑問なのかもしれなかった。桃太郎の物語は、作られた当時の封建社会を色濃く反映していると言われている。それが現代の時勢にはあっていないため、お供の三匹との関係を家来ではなく“友達”として描く絵本も最近は増えてきているのだとかなんとか。
「きびだんご一個だけで命をかけて鬼と戦うなんて、そんなのわりに合わないと思う。雇われたんだとしても、ブラック企業ってやつじゃないの?」
同じ小学二年生でも、女の子は随分とませているし語彙も豊富だ。低学年女子の口からほいほいブラック企業って言葉が出てくるのも複雑な気分にはなるが。
「きびだんごだけで家来になれなんて言われたら、わたしは絶対断るし」
「それだけお腹すいてたんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、きびだんごだって桃太郎が自分で作ったものじゃなくて、おばあさんが作ったものでしょ。タダで貰ったものを人にあげたのに、それで家来になれってなんかおかしいっていうか」
「じゃあ、美音ちゃんはお供の三匹は家来じゃなくて、仲間であるべきってこと?」
「そー。対等じゃなきゃ変だよ。それなのに、なんでかお話のタイトルは桃太郎だし、最後にみんなに感謝されてるのも桃太郎ばっかりで、なんか桃太郎が一人でヒーローになったみたいでムカつくっていうか」
ふん、と美音は鼻を鳴らすのだった。
「他にも頑張った子たちがいるのに、桃太郎ばっかり褒められてずるいと思う。なんで桃太郎ばっかりちやほやされるの?そういう、脇役にされたキャラを軽んじるみたいなの、わたしは嫌いなの!」
誰かが贔屓されることで、誰かが脇役に追いやられる。そして、ヒーローという名のスポットライトを浴びることができなくなる。
ひょっとして、と私は気がついたのだった。だって、さっき確かに彼女はこうも言っている。
『わたし、桃太郎って嫌いなの!桃、ってお花は好きだし、名前はとっても素敵だけど、桃太郎は嫌い!』
彼女が桜を嫌いな理由は、ひょっとして。
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