脇役達に花束を

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 *** 「佐藤さん」 「!」  その日の放課後、私は帰ろうとしていた美音に声をかけたのだった。そして、ちょっと話したいことがあるから、と職員室に呼び出すことにする。  美音もおおよそ、自分が呼ばれた理由に気がついていたのだろう。やや硬い表情のまま、先手を打つように言ったのだった。 「わたし、お花見はやるべきじゃないと思ってますから。ぜったい、ゆずりませんから」 「……ええ。その意見はわかっているわ。桜が嫌いなんですって?」 「はい」 「その理由は、桜が……春の主役を独り占めしているから?」 「……そうです」  私の言葉に、美音は悔しげに頷いたのだった。 「なんで、お花見って桜だけを指すんですか?なんで、桜だけを見るんですか?春に咲くお花は桃とか梅とか、それ以外にもいろいろあるのに。ぜんぶ、美味しいところは桜が持って行っちゃう。去年までは気づいてなかったけど、桃太郎のお話を見たら、なんでこんなに嫌な気持ちになったのか気がついたんです」  少女はぎゅっと、膝の上で拳を握る。 「せっかく、春が来るのに。桜だけ贔屓してみんなで褒めたら、他のお花が可哀想です。桃太郎だけ英雄みたいにされて、オマケにされちゃった動物たちと一緒。わたし、自分がそういう扱いをされたら嫌です。だから、自分がされて嫌なことはしないことにしようと思ったし、みんなにも気づいてほしいんです。桜だけ、綺麗綺麗ってお花見で褒めるのはおかしいって。他のお花が寂しがってるって」 「佐藤さん……」  独特な発想なのは間違いない。まだ幼さゆえ、巻き込まれる他の子供達の気持ちまで思い至っていないところもあるのは事実だ。でも。  桜以外の春の花が可哀想、なんて。お花見はなんで花見というのに桜だけを指すのか、なんて。私にはけして思い至らなかったことだ。 「わかったわ」  私は彼女の手を握って言うのである。 「じゃあ、こうしましょう。桜以外のお花も楽しむお花見にするの」 「え」 「桜以外のお花も主役。みんな主役のお花見よ。それなら、不平等じゃないわ。あなたも、お花見を楽しめるんじゃないかしら?」  いつか。優しい彼女が、桜のことも好きになれるようになったら嬉しい。  花にはなんの罪もない。罪があるとしたら、それを扱う人の心であるはず。いつかそう、彼女が気づいてくれたのであれば。 「……第六公園に、梅の木があるんです。先生、知ってましたか」  美音は嬉しそうに笑って言うのだ。 「みんなと、見たいです。凄くキレイだから」 「そうね。みんなにも教えてあげなくっちゃね」  主役も脇役もないセカイでありますよう。  理想論だとしても、私達はついそんなことを願ってしまうのだ。
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