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小さい頃から、千秋は私にとっての神様だった。
父の転勤で来た新しい街の中で、千秋だけが私の味方で、唯一の好きな人。歳は10も上だけど、それでも私は大きくなったら千秋とバージーンロードを歩くことを疑わなかった。
──だってそれは……運命、でしょう?
ふわふわとした柔らかい黒髪、暖かい茶色の瞳、笑うと頬のあたりにできる可愛らしい皺も、全部……全部私のもの。
──誰一人、その視線を奪ってはいけないのに。
「サクラー!元気にしてたか?」
ワンッと大きく吠えた犬は千切れんばかりに尻尾を揺らすと、千秋は弾けるような笑顔をソイツに向ける。そのせいで私が千秋のところへ行くたびに、「サクラ」という雌犬は私に見せびらかすように千秋の気を引く。
犬は得だ。
頑張らなくたって可愛くて、ちょっと尻尾を振るだけで愛してもらえる。
そんなに可愛くもないくせに。
努力なんてしてもないくせに。
私は拳に力を込めて唇を噛むと、腹の底から湧き出るような感情をため息と共に吐き出し、「千秋兄ぃっ!!」と笑う。
「何?」
サクラから目を離して私に微笑む千秋を見て、私は一種の独占欲に満たされる。
──そう、私を……いや、私だけを見て?
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