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じわりと額に汗が滲む。ごくりと喉を通過していく嫌な唾。30人ほどいる教室の中で、わたしはもう上村くんしか見えていない。
はあっと呆れた溜め息を吐いた上村くんは、揺らせていた椅子を止め、気怠そうに頬杖をつく。
「俺、家近いからさ、毎朝校庭の方からこっそり校舎入って、先生の下駄箱に嫌がらせの手紙入れてたんだよ。4月からずーっと」
「え……」
「バレたらやめよーと思ってたけど、全然バレる気配ないし。こっちもやめ時わかんなくなって困ってる」
吃驚仰天とは、まさにこのことを言うのだろう。怒りの感情よりも驚きが勝ったわたしは、瞬きすらも上手くできない。
嘘だ……だってそんな、そんなはずないっ。わたしの下駄箱に入っている手紙には、いつも悪口とは程遠い言葉ばかりが並べられているし、そこに悪意なんか一切ないものっ。もし、もし上村くんが言うように、彼が毎日わたしの下駄箱に嫌がらせの手紙を入れていたのだとしたら、じゃあその手紙はどこへいっちゃったの……?そしてその代わりに優しい手紙を残してくれていたのは、一体誰なの……?
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