ラストレター

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 その後は終始、手紙のことで頭が支配され、教諭人生の中で最も酷い授業を終えたわたしは、項垂れたままに5年4組の教室を出た。  毎朝校庭の方からこっそり校舎入って、先生の下駄箱に嫌がらせの手紙入れてたんだよ。4月からずーっと。  バレたらやめよーと思ってたけど、全然バレる気配ないし。こっちもやめ時わかんなくなって困ってる。  ぐるぐると脳内を駆け巡るのは、つい先ほど聞かされた衝撃的な事実。 「はあ……」  嘆息しながら、複雑な感情で廊下を歩いていると、ふと床で寝そべる青いものが目に留まる。 「ハンカチ?」  おもむろにそれを拾ったわたしは癖からか、記名があるかどうかを確認した。 「高地(たかち)(はじめ)……ああ、用務員さんの」  高地一、それは高地さんのフルネーム。彼が時折このフロアにも掃除をしに来ていることは知っていた。「そんなこと生徒たちがしますから」と言っても、「手が空いてるんで気にしないでください」と言ってきかずに、廊下からこっそり授業風景を眺めたりもしていた。  掃除好きなのか子供好きなのか。たぶん後者だろうな、とわたしは思う。
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