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「おや、近藤先生?」
廊下は走ってはいけない、と普段児童に注意しているわたしが息を切らせているのを見て、トイレから出てきた高地さんの目が丸くなる。
「どうしたんですか、そんなに慌てて」
少し濡れている高地さんの手、わたしはハンカチと一緒に、先ほど拾ったメモを差し出す。
「これ、高地さんのハンカチっ。5年生の階の廊下に落ちていましたっ。あとこれも、用務室のデスクの下にっ」
わたしからそのふたつを受け取った高地さんは、ハンカチで手を拭いつつ、メモにも目を落とす。慌てて畳んだから、端も揃っていないくしゃくしゃの四つ折り。高地さんの視線がわたしに移されて、言葉を続ける。
「ずっと、4月からずっと手紙をすり替えてくれていたのは、高地さんなんですよねっ?わたしの下駄箱に嫌がらせの手紙が入れられているのを見て、だから、わたしが傷付かないように優しい嘘の手紙を書いてっ」
毎朝毎朝、自然と笑みが溢れたその内容。あれがもし棘のある言葉だったら、わたしの1日の始まりは、いつもドン底気分からのスタートだったろう。
早口で捲し立てるわたしの前、高地さんは目尻に皺を作る。
「嘘なんかじゃありませんよ。あの手紙は、子供たちの素直な意見です」
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