ラストレター

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 翌日から、わたしの下駄箱からは手紙が消えた。わたしに正体がバレたことを機に、上村くんは嫌がらせをやめたようだ。  しかし、異動前の最後の登校日。 『先生今までありがとな!早く結婚しろよ!』  下駄箱を開けた途端にでかでかと見えたそんな文字に、わたしは思わず笑ってしまった。 「お、大きなお世話なのよ上村くんってば。私生活のことなんて、あなたに関係ないでしょっ」  そう小さく呟いて、その手紙を取ると。 「あれ、もう1枚……?」  その下に、きちっと端の揃えられた四つ折りの手紙が置いてあった。  サッサッサッ  わたしの背後から聞こえるのは、いつものあの音。そっと開いた桜色の便箋には、こう書かれていた。 『次の学校に行っても、頑張ってくださいね。ずっとずっと、応援していますよ』  4月の頭から、ずっとわたしの下駄箱に入れられていた差出人不明の手紙。それを受け取るのも今回で最後。今日も差出人は書かれていないけれど、この美しく上品な文字は、あの人しかいない。  ラストレターを握りしめ、ゆっくり振り向けば、そこにあるのは柔和な笑顔。彼の目尻に刻まれている優しい皺を、わたしもこれから、たくさん刻みたいと思った。 「相変わらず字がお上手ですね、高地さん。どうか、お元気で」
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