23人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはようございます、近藤先生」
昇降口から校舎へ進むと、まず初めに顔を合わせる人がいる。
「おはようございます、高地さん。今日はすごく暑いですね、なんだか蒸し蒸しするし」
「天気予報では、午後から雨だと言っていましたよ」
「え、そうなんですか。嫌だなあ、雨」
「傘はお持ちですか?」
「はい、置き傘があるので」
「それはよかった」
彼は、用務員の高地さんという方。お爺さんと言うにはまだ早い、推定65歳前後。いつも目尻に皺を作って笑顔を振りまいてくれる彼は、校舎に入ってすぐの用務室から顔を出し、目の前を行き交う職員、児童たちと挨拶を交わす。
「それでは、また」
「はい。今日も1日頑張りましょう」
高地さんとの軽い雑談を終えたわたしは、用務室から真っ直ぐ進んだ壁沿いにある、職員専用の下駄箱へと向かった。
サッサッサッ
そのタイミングで聞こえるのはこんな音。それは用務室から出てきた高地さんが、竹ボウキで玄関タイルを履く音だ。
サッサッサッ
聞き慣れた背後のリズムを耳に、今日も下駄箱を開けると──
「あ」
まただ。また手紙が入っている。
きちっと端の揃えられた四つ折りのそれをそっと開くと、今回はこんな文章が書かれていた。
『先生のおかげで、勉強が好きになりました』
読み終われば、自然と緩んでいくわたしの口元。勉強を好きになってもらえてよかった、先生になってよかったとしみじみ思い、鞄の内ポケットへ大事にしまう。
これが、毎朝のわたしのルーティン。
最初のコメントを投稿しよう!