ラストレター

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「高地さんって、達筆ですよね」  とある日の放課後、用務室のガラス越し。封筒に宛名を書いている高地さんが見えて、わたしは足を止めた。 「それ、普通のペンですよね?なのにまるで、筆で書いたような字」  とめる箇所はきちんととめて、はねる箇所はしっかりはねて、はらう箇所は(しか)とはらう。美しく整ったその字に、わたしは目を奪われた。 「そうですか?それはどうも」 「習字かなにか、昔習ってらっしゃったんですか?」 「いいえ。ただこの年齢(とし)になって今さらですが、ペン習字というものに手を出してみました」 「そうなんですか、だからお上手なんですね。わたし、縦書きって苦手なんです。平仮名と漢字のバランスが、横書きの時よりも悪くなっちゃって。クラスの子供たちにも、よく注意されますし」  先生の字、ナナメってるー。  その時ふと耳元で聞こえてきたのは、上村くんの茶化す声。彼はわたしの欠点を見つけると、すごく嬉しそうな顔をする。  食い入るように宛名を見続けていれば、高地さんが微笑んだ。 「近藤先生の字も、お綺麗ですよ」 「え?」 「わたしは校内のフロアを掃除してまわっているんでね、近藤先生の授業風景を時々目にするんですよ。その時の先生の熱心な横顔と、黒板に書かれた丁寧な文字、いつも感心していますよ」  彼の目尻、笑顔の時にできる皺。この皺は、高地さんが優しい人だという(あかし)だと思った。 「ありがとうございます、高地さん」
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