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それから数ヶ月後。去年あたりからそろそろかなとは思っていたけれど、年明け早々に、わたしの異動日が決まった。この学校に居られるのは3月いっぱいまで。来年度からは、他の小学校で授業をする。
『先生みたいに、字がうまくなりたいです』
今朝も、わたしの下駄箱には四つ折りの手紙が一枚入っていた。それを読むと元気が出る、やる気がでる。そして、胸をきゅっと摘まれたような、そんなむずむずした気持ちになる。
「本当、いつもありがとうね」
感謝が募れば、思うのはこんなこと。
学校を離れる前に、君へ「ありがとう」を伝えたいな。
4月からずっとずっとこの手紙を書いてくれた子へ向けて、最後にお礼が言いたい。授業中に机へ伏せる児童がいても、暴言を吐く児童がいても、わたしはこの手紙のおかげで毎日挫けずに学校へ来られたんだ。涙が溢れそうになった日もこの手紙を読み返せば、胸は悲しみじゃない別の感情で満たされていった。
「でもどうやったら、君の正体がわかるんだろう……」
未だに正体のわからぬ差出人を見つけ出し、礼を告げることは、この小学校で過ごせるあと僅かな時間の中で、最後の宿命だとすら感じてしまったわたし。考えて考えて、思いついたその方法。早速それを、実行へ移す。
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