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「誰ですか、なんて手紙書かずに、直接聞いてまわれよバーカッ」
ホームルームを始めようと教卓へ立ったわたしを硬直させたのは、教室の後方で座る上村くんだった。ぶらぶらと前後に椅子を揺らしながら、太々しい態度をとってくる彼の視線は鋭い。
「え、手紙?」
「とぼけんなよ。『1年間わたしへ手紙をくれたあなたは誰ですか』って書いてたじゃんかっ。だからちゃんと、『上村でーす』って返事したし」
「え……」
その瞬間、真っ白になる頭の中。
なんで。どうして上村くんが手紙のことを知っているの。しかもそんな返事、わたしは貰っていない。今朝の下駄箱に入れられていたのは、そんな文章じゃない。
「か、上村くん。ちょっと先生、上村くんがなんの話をしているのかよくわからないんだけど……」
震える声でそう返すが、彼はまた「とぼけるな」と言ってくる。
「手紙、入ってただろー?」
「て、手紙……?」
「だからとぼけんなってばー、手紙だよ、手紙」
「手紙って、なんの手紙……?」
「だーかーらーっ。近藤先生の下駄箱に毎日入ってるあの手紙だよ。俺が毎日、悪口書いて入れてるやつ」
互いに『手紙』について話しているのは確かなのだけれど、全くもって噛み合わない。クラスの皆には関係ないから、早くホームルームを進めなければと思うのに、気付けばわたしは、さらに問いかけていた。
「わたしの下駄箱ってなに?悪口ってどういうこと?上村くんは、さっきから一体なんの話をしているの?」
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