椎名くんは譲らない

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「まさか。それ、椎名くんの創作でしょ? 焼きそばパン欲しさに言ってるだけでしょ?」 「いや、俺もこの前初めて聞いたんだが、どうやら本当らしいんだ。ある人が最後の焼きそばパンを誰にもシェアせずに食べたところ、突然ホームランボールが飛んできて、顔面に当たったらしい。おかげで食べたばかりの麺が鼻から出てしまったところを好きな女子に見られたそうだ。恐ろしい」 「そりゃ恐ろしいな。ボールが顔面に当たる恐怖にも勝るわ」  私は焼きそばパンを一口頬張った。んまい。麺はモチモチでコッペパンの間にたっぷり詰め込まれ、お好み焼きソースの甘辛さが絶妙なバランスで混ざり合っている。 「俺の話を聞いていたのか、藤川! このままじゃ、お前も不幸になるんだぞ! おとなしく焼きそばパンを半分よこすんだ!」 「やだよ、マジでうまいよこの焼きそばパン」    椎名くんは私の肩を掴んで真剣な顔をした。 「この分からず屋! もっと恐ろしい話があるんだぞ! 今度こそ真面目に聞け! ある男が、やはり最後の焼きそばパンをゲットした帰り、不良に絡まれてしまったそうだ。『パンを買ってこい』と命令された男は、焼きそばパンを差し出す勇気が出せず、代わりにジャムパンを買って行った。するとその不良は『俺が買ってこいって言ったのはジャムパンじゃねえ、チョココロネだ!』と言い出し、結局彼はボコボコにされてしまったらしい……!」 「チョココロネを欲しがる不良、可愛すぎんか」  ああ、パンもふわふわで美味しいな。また買おう。  焼きそばパンを夢中で頬張る私を見て、椎名くんが泣いた。 「聞けよ人の話!」  
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