椎名くんは譲らない

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「悲しい、な」 「悲しいだろう」  椎名くんはふと視線を窓の外に向けた。  桜が咲き誇る、四月の空だ。 「Sも本当はFのことが好きだったんだ。なのに、ずっとそれが言い出せないまま友達としてそばにいた。もし彼女が焼きそばパンを半分くれたら、勇気を出してお礼に好きだと言おうと思っていたけど──それも叶わぬままで。二人はお互いに後悔を背負って、焼きそばパンを見るたびにあの日のことを思い出すんだ。桜が舞い散る、あの日の空を」  椎名くんにつられて、私も空を見る。  晴天なのにどこか雲が厚めに見える。窓枠の外からはらはらと舞い落ちる桜の花弁はまるでスローな雨のように一瞬光って消えていく。  創作だよね。  胸に迫る切なさを焼きそばパンと一緒に飲み下した。  気づいたら、最後の一口。 「くれよ、藤川」  最後の焼きそばパン。  伸びてきた椎名くんの手に奪われかけたそれを、私はパクッと口に入れた。 「あああああああ〜〜!! おま、お前な! そういうとこだぞ、藤川!!」 「いや〜、面白かったよ椎名くん。おかげで幻の焼きそばパンのありがたみを感じた」  椎名くんは私を涙目で睨みつけ、 「後悔するぞ」  と捨て台詞を吐いた。  
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