椎名くんは譲らない

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 後悔なんてしない。  あれはただの創作だし。  そう思ったことを私が悔やむことになったのは、その日の放課後。  帰り道で椎名くんの家の前を通りがかった時だった。  そこには、狭い住宅街の路地を塞ぐようにして2トントラックが停まっていた。  トラックの横腹にはCMで有名な引っ越し屋のキャラクターが描かれていて、何のためにそれが来たのか周囲に教えているかのようだった。  私が椎名くんの話を思い出したのは言うまでもない。  焼きそばパンを一人で食べてしまった椎名くんの女友達、F。  Fが好きだった男友達のSは、お互いに想いあっていたのに、それを告白し合うきっかけを逃して──そのままSは引っ越ししてしまう。 「これで最後だな」  椎名くんに似ている声がした。  トラックの向こう側で住人が荷台へ荷物を運び込んでいるんだと気づいた。  私は思わず電柱の陰に隠れた。  今の声は、椎名くんのお父さん? 「うん。ありがとう。今までお世話になりました」 「家族が一人いなくなるのは寂しいな。たまには連絡してくるんだぞ」 「分かってるよ」  返事をしたのは椎名くんだろうか。  一人いなくなるって……どうして? 「友達にはちゃんと別れを言ったのか? お前が海外留学するって聞いて、みんなびっくりしただろう」  何それ。  海外留学?  今、初めて聞いたんだけど。  息が止まる私とは対照的に、椎名くんは笑っていた。 「実はさあ、みんなには言えなかったんだよね。俺がこの春からいなくなるってこと……。みんなが悲しむ顔とか、見たくなかったしさ」  何それ。  何それ。  聞いてない。  
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