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「あのー、すいません。うちの家の前にトラック停めるの、やめてもらえませんか?」
その時、椎名くんの家の中から椎名くん本人が出てきて二人に注意した。ハゲたおっさんとデブの学生は「すいませーん」とふてぶてしい声で謝ると、トラックと共に去っていった。
後には、困惑顔の椎名くんと逃げ場を失った私が取り残されていた。
「何やってんの、藤川」
「いや……偶然通りかかっただけ。っていうか、何なん? さっきの人たち」
「ああ、隣に住んでる人。明日から息子さんだけカナダに留学するらしくてさー、引っ越しのトラックがうちの方まで侵入してきて迷惑してたんだわ」
「声がやけに椎名くんに似てなかった?」
「そう? よく分かんない。俺はそう思ったことなかったけど。似てた?」
思い込みって怖い。
完全に椎名くんの声だと思っていた私の脳みそ、どうなってんだ。
「なんだよ、藤川。俺が引っ越しするとでも思った?」
椎名くんがニヤニヤしながら私に近づいてきた。
「だって、椎名くんが昼休みに変な話するから!」
「そんな話したっけ? あ、不良がチョココロネ食べたがってた話か」
「うっさい、死ね!」
椎名くんの弁慶の泣き所を蹴り飛ばしたら、椎名くんはぎゃあっと叫んで片膝をついた。
「おのれ、藤川! 今の仕打ち、後悔させてやるからなっ!」
「しないもん」
私は笑いながらダッシュで逃げ出した。
分け合わないと不幸になる焼きそばパン? 何だそれ。
私は明日もきっとこうして笑っているだろう。
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