椎名くんは譲らない

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 その翌日の昼休み。  購買部のパン行列に並んでいた私は、隣のクラスの佐藤さんとバッタリ出会った。  佐藤さんは椎名くん関係で最近友達になった人で、他人の心が読めるんじゃないの? っていうくらい勘が鋭い。 「あっ、藤川さん。焼きそばパン買いに行くの?」 「うん、そう。よく分かったね」  ほらな。勘が鋭い。   「大人気だよね、ここの焼きそばパン。そういえば、知ってる? この学校の七不思議のひとつに、ここの焼きそばパンが入ってるの」 「えっ? あれって本当なの?」  驚いた私を見て、佐藤さんはふふっと意味深な笑みを浮かべた。 「うん。焼きそばパンを好きな人と分け合うと、その二人は結ばれるっていう七不思議。だから大人気ですぐ売り切れちゃうんだよ」 「えっ……そうだったんだ!」  おいおい、椎名くん。  七不思議の内容、違うじゃないか。  それともあれは……わざとですか?  あんな変な嘘ついてまで私と分け合って食べようとしたのは、そういうこと?    ムズムズしながら行列に並んでいたら、焼きそばパン争奪戦に負けてしまった。  今日は仕方なくおにぎりを買って教室に帰る。  すると。 「ジャーン」  今どきあり得ないほど古典的な効果音をつけて、椎名くんが私に焼きそばパンを見せつけてきた。 「うそ。それ、買えたんだ」 「うん。ラス1。運よくゲットできてさー」  焼きそばパンと椎名くんを交互に見つめると、椎名くんはニヤリと笑った。 「半分こする?」
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