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夜の闇に決して紛れることのない姉の新雪のように白い手が僕の袖を引いた。
「姉さんの部屋に来なさい」
僕の背が伸び始めてから、いくら姉弟といえどみだりに女の部屋に入ってはいけないと親に言われ、もうずっと足を踏み入れられていない姉の部屋。
姉なのだから、そこに呼ばれたって、そういう意味ではないと普通ならば解釈しなければならないのかもしれない。
でも姉が僕の気持ちを知らないはずもないので、一瞬躊躇った。
「お父さんもお母さんも、今夜は酔って寝てるから」
「……姉さんが呑ませたんだろ。お祝いだからって」
「だって、龍進と過ごせる最後の夜だもの」
当たり前のように言われ、白い指を絡められる。これ以上ここで囁き合っている必要があるのだろうかとぼんやり思う。
姉さんは明日、僕じゃない男と結婚する。今夜しかないということは僕にだってわかっていた。わかっているからこそ、躊躇う。
「いいの?」
思わず聞いてしまった僕に、姉さんが小さく笑って、きつく爪を立ててくる。姉さんの綺麗に整えられた爪が僕の肉に食い込む。このまま離れなければいいのに。
「姉さんの言うことが聞けないの?」
そんなわけない。姉さんの言うことはいつだって聞いてきた。今夜だって同じことだ。
「ちゃんと聞く」
そう言って自分からも指を絡めた。だから、と姉さんに手を引かれるままに言う。
「きらいにならないで」
姉さんは笑いながら「かわいい子」と言って、僕を部屋に連れ込んだ。
誰にも見られない、知られない場所で、僕は姉さんの言うことを全部聞いて、全部を捧げた。
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