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姉と結婚できないことなど、五つの頃には知っていた。
僕がどれだけ姉を好きだろうと、そんなことは関係ないのだろう。
大きくなったら姉さんと結婚する、と言った時のあの両親の微笑ましいものを見る笑いといったら、いま思い出しても虫唾が走る。
到底叶わない幼子の戯言だと思っているからあんな風に笑ったのだろう。
僕は十年経った今でも、姉さんのことがこの世の誰より好きなのに、そのことを姉さん以外の誰も知らないし、本気に取らない。
「世の中の人間は、大抵馬鹿なのよ」
昔、姉はよくそう言っていた。姉が幼い頃に着ていた着物を僕に羽織らせながら姉はこの世の真理を語った。
「龍進は桃色の着物がよく似合うわ」
「そうかな」
「お人形みたいで可愛いこと」
嬉しそうな姉に水を差すのは嫌だったけど、どうしても言わずにはいられなかった。
「でも、僕は白がいい」
「あら、どうして。姉さんの言うことが聞けないの?」
「そうじゃないよ。ちゃんと姉さんの言うことは聞く。だけど、僕が好きなのは白なんだ。白は姉さんの色だ」
そうでしょ、小雪姉さん。と呼ぶと、くすりと笑いながら姉は僕を抱きしめてくれた。
「かわいい子」
姉の言葉が何より嬉しかった。姉のことが誰より好きだった。いつか僕以外の人間を姉が抱きしめるのかと思うと、それだけで苦しくなるくらいに、僕は姉に恋をしていた。
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