修学旅行(赤坂 side)

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透き通るような声が耳に入り、俺は我に返った。そう、これは夢じゃない。俺はこいつと夜を共に過ごすんだ……。いやいや、そんな変な意味ではなくて、純粋に、同じ部屋で寝るってだけであって……。 「お、おう……」 返事をしたが、あいつはすでにバスルームに入っていた。広くて狭い部屋に俺の声が虚しく響く。 静かな空間に、優しく木霊するあいつのシャワー音。何だかむず痒くなって、思わずイヤホンを付けた。 しばらくして、黒井が風呂から上がった。顔はいつもと同じ柔らかな表情だが、いつもの制服姿とは違ってジャージを身にまとっている。袖口から白くて細い指をチラリと覗かせている。うわっ、萌え袖かよ。ホント女みたいに細い体だな。てか、こいつもこういうラフな格好するんだな……。 微かに香る匂いが俺の鼻をくすぐる。シャンプーの匂いだろうか、それとも……。 「赤坂(あかさか)くんも入る?」 「あっ、あ、そうしようかな……」 黒井に振られ、つい頷いてしまった。もう少し後で入ろうと思っていたが、さっきの騒動で体が冷えているし、このままいても気まずいだけだ。俺も服を持って早足で風呂場へ向かった。 黒井に名前を呼ばれて何だかくすぐったい気持ちになった。正確には苗字にくん付け、だけど。俺の下の名前とか覚えてないよな、流石に。クラスの男共も苗字に呼び捨てで呼び合うことが多いし、そんなもんかな……。なんてくだらないことを考えながらシャワーを浴びていた。 それから、風呂を終えても特に会話はなく、お互いスマホを触ってばかりだった。しんと広がる静寂がやけに俺の心をざわつかせる。早く時間が過ぎてくれ……そんなことばかり願ってしまう。 ふと、少し離れた場所にいる黒井を見てみた。細い髪に、ものすごく整った端正な顔立ち。長く伸びたまつ毛が切ない表情を浮かばせ、儚い印象を受ける。真っ白な肌は滑らかで、触れると溶けてしまいそうな……そんな感じがした。こいつって、かなり綺麗な顔してるんだ……。ほとんど意識して見たことなかったが、そのことに今ようやく気づいた。 ああ、このままだと気が狂いそうだ。俺はスマホを机の上に置き、恐る恐る声を振り絞った。 「俺、そろそろ寝ようと思うからさ、椅子に座らせてもらってもいい?」
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