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今俺は立ちっぱなしで、黒井は椅子に腰かけている。当然、黒井の部屋だからベッドは黒井が使うものだ。流石に突然やって来て俺が使うわけにもいかないから、今黒井が座っている椅子で寝るしかない。
「いや、椅子は硬いし、風邪引くよ?僕が椅子で寝るから、赤坂くんはベッドで寝て?」
「いやいや、それは黒井に悪い……!」
それはだめだって黒井。そりゃあ横になって寝たいけどさ、この状況で俺がベッドなのはいかがなものかと。しかし黒井は大丈夫だからと言う。しばらく譲り合いが続いた後、黒井は衝撃的な言葉を発した。
「じゃあさ、僕がこっち半分を使うから、赤坂くんはそっち半分使って」
思わず吹き出しそうになった。しかもこんな時でも黒井は平然と柔和な笑みを貫いている。何も言えずにぽかんとしていると、無言の肯定に捉えられたのか、結局2人ともベッドで寝ることに。
恥ずかしすぎて、俺はベッドの端ギリギリまで寄り、黒井に背中を向けた。
そっと後ろを振り返ると、黒井の背中が見えた。シングルベッドだから後ろ向きでもめちゃくちゃ近い。けど、今こいつがどんな顔をしているかわからない。俺はすぐにまた体を背けた。
会話は何も生まれない。そんなのいつも通りじゃないか。何を焦っているんだ、俺。そう言い聞かせても鳴り止まぬ鼓動。
黒井は俺のクラスメイト。ただそれだけだ。俺はノーマルだし、黒井だってきっと女が好きだ。じゃあこの胸のざわめきは何……?
黒井は本当に大人しい。今まで話したこともなかった。俺だって比較的静かな性格だが、それ以上に寡黙な黒井のことを、内心どんなやつなんだろうって気になり始めた。
……もしかしたら俺は、黒井ともっと話したかったのかもしれない。修学旅行最終日前夜。これを逃したら黒井と話す機会もないかもしれない。そう思うと少し寂しく感じた。
何でそう思うんだろう?喋ったこともなかったのに。黒井には不思議な雰囲気がある。見た目は全然違うけど、どこかシンパシーを感じる。それに、アクシデントで困っている俺に手を差し伸べてくれた。純粋に優しいやつだな、どんなやつなのか色々話してみたいなって思ったんだ。
今からでも遅くない。もう少し、もっと近くで……
俺は黒井のことが知りたい。
そう感じた俺は、溢れ出す鼓動に身を任せ、再び黒井の方に体を向けた。
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