夕暮れのバレンタイン(黄崎 side)

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「はぁーー…………」 洗面台で盛大なため息をつく。鏡で自分の顔を見てみる。朝ワックスで固めてきたはずの髪はボサボサで、表情も暗い。全然いつものオレらしくない……。 オレは何が不満なんだ?大勢で合コンなんて、リア充の代表じゃねぇかよ。赤坂と黒井が話してるのが気に食わねぇ?何で……赤坂なんて別に…………。 モヤモヤした気持ちで頭を抱えていると、ドアが静かに開かれた。 「黄崎くん」 「っ、黒井」 鏡越しに見ても輝いている男。黒井凉音が背後に立っている。妙に整った顔立ちで、それが余計にイライラする。 「安心して?僕は君のトイレシーンを見に来たわけじゃないから」 「わかってるわッ!んなもん見んな!」 「もちろん、赤坂のだったらじっくりと観察したいんだけど……」 「変態かお前はっ!絶対やめろ!!」 なぜか頬を赤らめて色っぽい顔をする黒井。こいつマジで危ない。赤坂は鈍感だから覗かれても気づかなさそうで、なおさら危険だ。何がじっくりと観察したいだ。いつか赤坂を強姦しそうで怖いわ。 「さっきからこっちをチラチラ見てたでしょ?」 「…………」 「あ、黄崎くん絶対赤坂のこと見てるって思って。赤坂が気になるのかな、僕が赤坂といるのが腹立たしいのかな、赤坂ってやっぱりかっこいいなーとか、赤坂が……」 「うるせぇ!何回も赤坂って言うな!」 思わずでかい声を出してしまう。それでも黒井は全く動じてない。こいつホントに肝が据わってるよな。オレよりだいぶ背も低いのに、負けじと強い目力でオレを見上げている。 ただ、図星だった。ダチといるのにあいつが気になって話が頭に入らない。そしてやたらと“あの夢”が頭によぎる。新年早々見た、オレがあいつを襲ってる夢……。今まで女としか付き合ったことないし、男に対して性的な目で見てないはずなのに……何であいつは……。 「本当は渡したかったんだよね?」 「ああ?」 「だから、バレンタインのチョコ。赤坂に渡すつもりなんでしょ?」 「なっ!!」 「朝からすっごい赤坂の姿見ながらそわそわしてたじゃん!鞄をがさごそしてさ。きっと渡すタイミングを伺ってるんだろうなー、可愛いなーって」 「うっせーよお前は!いちいちオレのこと見てんじゃねぇ!」 「いたっ!痛いってばぁ!」
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