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思い切り黒井の頬をつねってやる。つねられてもなお美少年で、また腹が立つ。潤んだ瞳で見てくんな。
しかしこれまた図星だ。あれこれ迷った挙句、オレはあいつにチョコをあげようとした。料理なんてできねぇから買ったやつ、だけど。渡したいのにクラスメイトがいるから全然渡せなくて、昼休みはダチとサッカーがあったし、放課後は合コンだし……といった感じで、渡しそびれてしまった。自分にもイライラするし、それを見透かしてた黒井もムカつく。
「お前は渡したのかよ」
「うん、さっき渡したよ。橙堂先生は昨日渡したって言ってた。今日は出張で学校に来れないからって」
どうやらセンコーまでもうチョコを渡したらしい。ホントにこいつらは、赤坂への想いが真っ直ぐだ。オレと違って……。
黒井みたいに堂々としていたら。センコーみたいにスマートになれたら。オレも渡せていたのかな。
「……オレって、どっちつかずだよな」
「えっ」
「陽キャのあいつらと遊んだりしながら、お前らとも一緒にいたり。ダチと騒ぐのもいいけど、お前らと話していても楽しいから……。自分でもどうしたいのかわからなくて……今日だって、本当は……赤坂と勉強しようと思ってたのに……やっぱりダチからの誘いを断るのも申し訳なくて……。だけどいざあいつの姿を見ると、何とも言えない気持ちになるんだ……」
オレはつい、黒井の前で弱音を吐いてしまった。自分のことなのに理解が追いつかなくて。ダチとは変わらずつるみたいと思いながら、赤坂達といると素の自分でいられてほっとするんだ。
きっとオレは、赤坂と共にいる方が本来の姿だしもっと一緒にいたいと願っている。同時に、ダチから見放されるのが怖いとも思ってしまう。こんなふらつく自分に嫌気が差していた。
少し間が空いた後、黒井が静かに呟いた。
「それは、全く気にしなくて大丈夫じゃないかな」
「気にしなくて、いい……?」
「うん。むしろ、いいことだと思うよ。恋人が何人もいて、その間でふらふらしてるのは問題かもしれないけど、黄崎くんの場合はそうじゃなくて、色んな友達を大切にしてるってことだし。どっちかと遊んでる時に、もう片方に対して申し訳なく思わなくていいと思うんだ」
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