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黒井は真面目な顔をしてそう言った。オレははっとした。最近はずっと、どっちつかずになっている自分が嫌だと思っていた。けど、黒井の言葉がじんわりと身体に染みていく。友達を大切にしている。そんな意識は全然なかったけど、そのひとことで心がすっと軽くなった。
「僕は友達がほとんどいないからそんな悩みもないんだけど、もし僕が黄崎くんの立場だったら赤坂のことばかり優先してしまいそう。だから、黄崎くんは偉いよ」
「黒井……」
「あんまり深く考えすぎずに、その時誰と一緒にいたいかで決めたらいいんじゃないかな」
そう黒井は微笑んだ。悔しいくらいに美しい笑顔。ホントに、黒井は芯が強くてしっかりしている。ライバルとか言いながらオレにもこうやってアドバイスをしてくれる。いけ好かんところもあるが、何だかんだ言いつつオレはこいつを信頼しているんだ。
「……ありがとう。お前の言う通りだな。変に悩みすぎずに、直感で行くのも悪くないかもな」
「ふふ、どういたしまして。それよりごめんね。今日、僕が赤坂を取っちゃって……」
「べっ、別に!あいつがもし空いてたら……って思ってただけだし」
「赤坂から誘われたわけじゃなくて、僕から誘っただけだから、そこは安心してね」
「そこも別に気にしてねぇよっ」
少し恥ずかしくなってそっぽを向いた。黒井ってやつは何でこんなに強いんだ。うっかり秘密にしておきたいことまで言いそうになる。不思議なやつだぜ、全く。
「じゃあ、僕達はもうそろそろ帰るから。また明日ね」
そう言って、黒井は結局トイレに行かずにそのまま去っていった。あいつは一体何者なんだよ。でも……あいつのおかげで少しだけ何かが見えてきた。
「おっ、來斗、遅かったな!」
「悪ぃ、ちょっと色々あってな」
「何だ、腹でも壊したのか?」
「ちげぇよ、身体は元気だっつーの」
オレは適当なことを言って椅子にどかっと座り、メロンソーダを啜った。氷が溶けて若干ぬるくなっている。
赤坂達はもういなくなっていた。たぶんオレらは夜までいるだろうな。下手したら二次会もある。
周りはオレのことなんて気にもせず、でかい声で喋っている。赤坂へのチョコ、いつ渡そう。また明日にでも渡そうかな。と思いながらふとスマホを見てみた。1件のメッセージが来ている。
『赤坂、17:00発の電車で帰るよ。』
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