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「はぁっ、はあ……っ」
足の速いオレでも、流石に制服で荷物を持って走ることには限界がある。スマホで時間を確認すると、16:55だった。あと5分……。駅まであともう少し……。ひたすらに長い道を走っていった。
向かい側から、鼻につくほどの美少年が歩いてきている。だんだんと距離が近づき、オレとすれ違いざまにゆっくりと微笑んだ。冬の寒ささえも忘れるほどの笑みで。ったく、オレは今お前と喋る余裕はねぇんだよ!がむしゃらに走りながら、振り向きもせずオレは黒井にピースサインを向けた。
オレンジ色の夕日が、優しくオレを包んでくれた。
駅に着いた。ずいぶんと古い田舎の駅。改札を出ればすぐそこにホームがある。しかし、あいつの姿は目の前のホームではなく、階段を渡った向こう側のホームにあった。もう電車が到着して、あいつが乗り込もうとしているところだった。
「赤坂ーーーっ!!」
改札前から、駅全体に広がるほどの大声を出す。周りが一斉にオレの顔を見る。でもそんなことどうでもいい。
赤坂が電車に乗るのをやめ、オレの方を振り返った。声は聞こえないが、絶対に驚いている表情だ。息を整える間もなく、オレは改札を飛び越えた。
「ちょっと君!」
「おにーさんすんませんっ、金は後で払うんで今は見逃してくださいっ」
困惑する駅員にそう告げ、オレは切符も買わずに走った。階段を1段飛ばしで跨ぎ、無我夢中で走る。
すると、反対側からあいつは心配そうにやって来た。……チッ、ホームで大人しく待っておけばいいのに……ホントに優しいやつ。
階段の踊り場で2人が出会い、オレは崩れるようにしゃがみ込んだ。こんなに全力疾走したのはいつぶりだ?オレをここまで走らせるなんて、赤坂って男は厄介なやつだ。赤坂は駆け寄って座り、オレの背中をさすった。
「黄崎っ、どうしたんだよ!?」
「っ、はぁっ、べ、別に……っ」
息が苦しいのに、こいつの手が温かい。不思議と気持ちが和らいでいく。
しばらく呼吸を落ち着かせた後、オレは鞄の中を乱暴に漁り、ラッピングされたチョコを差し出した。
「ん」
「えっ、これ……」
「チョコ。バレンタインだろ、今日」
「お前、まさかこのために走ってきてくれたのか……?」
「うるせぇな!やるっつってんだよ!その……お前にはいつも、世話になってるから……」
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