夕暮れのバレンタイン(黄崎 side)

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疑問をぶつけると、赤坂は少し黙った後、オレの目を見て呟いた。 「うん。俺、好きな人がいるんだ」 衝撃的な発言に、一瞬時が止まる。あの鈍感な赤坂に、好きな人…………? 今までこいつの恋愛話なんて、聞いたことがなかった。初恋相手がゲームのキャラなんて言うから、あんまりリアルの恋愛に興味ないんだと、そう思ってた。それが…………。 「好きな、人…………?」 「そう。けど、俺今までまともに恋愛なんてしたことなくて、知識も経験もなくてさ。黄崎がどんな恋愛をしてたのか、気になって聞いてみたかったんだ」 最初は嘘だろって思った。でもこいつの表情からして、冗談をついているわけではないのはわかる。 好きなやつって誰なんだろう。黒井?橙堂?他の女子?それとも……。 もし……オレだったら。オレはどうする?そんな話、あるのか……?不安と期待がぐるぐる混ざり合う。 「その好きなやつとは、もう付き合ってるのか?」 「いや、付き合ってないよ。そもそも好きだと自覚したのが最近で……。いつかは告白しようかと思ってるんだけど、両想いになれる自信なんてないし、まだ勇気がなくて……。いつ告白しようかとか、どんなふうに想いを伝えたらいいのかとか、全然わからないんだ」 オレから視線を逸らし、駅のホームを見下ろす赤坂。夕日に照らされたその横顔は、少し赤くなっていた。不意にも可愛いと思ってしまった。初めて見るこんな姿。恋をすると女は可愛くなるとか聞いたことあるけど、男のこいつはどこのどいつよりも初々しくて、思わず触れてしまいそうになる。 なんて声をかければいいのか、わからない。相手が誰なのか問い詰めてやろうかと思ったけど、それも怖くてできない。赤坂の中で、何かが変わり始めている。ドキドキするのと同時に、この優しい時間に終わりが来てしまうんじゃないかっていう恐怖が襲う。 「……そんなもん、知識も何も関係ねぇよ。ただお前が伝えたい時に、伝えたい言葉をぶつけたらいい。だめだったらその時考えればいいんだよ」 「……そうだな。あんまりあれこれ考えすぎちゃだめだよな」 また少しの間、沈黙が起こる。普段からこいつはそんなに喋りまくるキャラじゃないし、静かになることなんてよくあるんだけど、何だか今は少しだけ寂しい。しょうもない話でもいいから声が聞きたいのに、話の内容が浮かばない。
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