ほのかな期待(橙堂 side)

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そう言って彼は小さく微笑んだ。昔のことが今のように思い出される。和臣ともそんな初々しい日々があったな。そう懐かしむ一方で、赤坂くんが思いのほかこの話題に興味があることが気になる。どうして俺の過去の恋愛なんて聞いてくるのだろう。もちろん全然話せるんだけど、今までそんなこと聞かれなかったから……。 「全然大丈夫だよ。俺も久しぶりにこんな話をして懐かしくなったよ。赤坂くんがそんな話に興味があるなんて、それこそ意外だね」 俺がそう問うと、彼は真顔になって少し口を噤んだ後、囁くように呟いた。 「実は俺、今好きな人がいるんです」 「えっ…………」 「その……俺の好きな人も、男の人だから……先生も、同じ経験をしてたって知って、色々気になっちゃって……」 衝撃が胸に突き刺さる。鈍感と言われる赤坂くんに、好きな人…………?少し恥ずかしそうに顔を赤くさせている。これはきっと、本当だ。 俺の中に、ほんの少しの期待と不安が押し寄せる。俺と彼は教師と生徒だから、公に恋愛をすることなんてできない。想っているだけでいい……そう言い聞かせていた。けど……まさか赤坂くんに好きな人、しかも男が相手だなんて聞いてしまうと、抱いてはいけないのに淡い欲を持ってしまう。 「そ、そうなんだね。その人とは今付き合ってるの?」 「い、いえっ!まだ全然そんなのじゃないです。ただ……先生がさっき言ってた『今まで感じたことのない緊張感とか楽しさがあって』って言葉、ものすごく共感したんです。今の俺と同じだなって。一緒にいたい、だけどドキドキする、みたいな……」 はにかみながら、照れ笑いをする赤坂くん。そんな彼も可愛いと思ってしまうけど、同時に暗い何が胸につっかえる。その相手って、誰なのかな。男ってことは、もしかして黒井くんや黄崎くんの可能性もある。ひょっとして……本当に奇跡が起こるのなら…………その相手が俺だなんてことは、ありえるのだろうか?……きっと、最後のはないだろう。けど、一瞬の夢を見てしまう。俺だったらいいな……なんて。 「そっか。それで俺の恋愛のことを聞いてくれたんだね」 「はい。先生は大人で色んな経験も豊富そうだし、恋愛のことも詳しいかなって。先生が男性と付き合ってたのは初耳だったんですけど、こんな状況なので余計にありがたかったです」
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