君がくれた宝物(橙堂 side)

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君がくれた宝物(橙堂 side)

3月に入った。職員室では受験関係で教師達が慌ただしくしている。同僚の宗佑も教室と職員室を行ったり来たりして忙しそうだ。美術教師である俺は毎年そういうのは無縁で、相変わらず自由な毎日だ。 そして放課後、またいつものように美術室にいた。今日は赤坂くんが来てくれる。事前にわかっていると、緊張するけど嬉しい気持ちになる。 この前の彼の言葉が離れない。好きな人、か……。相手は男って言ってたけど、その後どうなったのだろうか。気になるけど、聞いてはいけないような、聞きたくないような……そんなことを考えながら座っていた。 チャイムが鳴ってすこし経った後、赤坂くんが部屋にやって来た。 「お疲れ様です」 「赤坂くん、お疲れ様」 どこか緊張しているような表情を浮かべている。いつもなら笑顔で来てくれるのに。学校で何かあったのかな。 「あ、この前言ってた絵。やっと返せる時が来たから返すね」 「はい、ありがとうございます」 俺がある額縁に入った絵を渡すと、赤坂くんは真面目な顔で受け取った。この絵は去年の秋にあった展覧会で、彼が提出してくれたものだ。それ以降も文化祭やその他のイベントで展示していて、今ようやくみんなに返している。 彼はその絵をじっくりと凝視している。今日の彼はいつもより口数が少ない。でも、そういう日もあるよねと俺は静かに見守っていた。 しばらくお互いに何も言わず、その優しくて緊張感のある空気を感じていると、赤坂くんが重そうな口を開いた。 「先生。この前言った話、覚えていますか?」 「この前の……?」 「俺が、好きな人がいるっていう話です」 「……もちろん、覚えているよ」 覚えていないわけがない。ずっと気になって仕方なかった、彼の好きな人。俺が答えると、赤坂くんはその額縁を抱きしめながら、覚悟を決めたような顔で言葉を発した。 「俺、こいつのことが好きなんです」 全てが崩れ落ちる音がした。いや、音なんてなくて、ただ静かに優しく洗い流すように。俺の胸が痛むけど、ズキズキと突き刺すような痛みじゃない、ぎゅっと苦しく締め付ける何かが。
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