君がくれた宝物(橙堂 side)

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赤坂くんの抱えている絵。写っているのは俺じゃない。絵の中でも優しく笑っている。その笑顔はまるで本物のように眩しくて、だけどなぜか滲んで見える……。あの展覧会の時も少しだけショックだったけど、今は比べようもないくらいにあらゆる感情がせめぎ合う。 失恋なんて慣れている。でも、何度経験しても悲しいものは悲しいな。悲しいと感じるほど、笑顔を浮かべたくなるのは俺の悪い癖なのかもしれない。ここで感情をむき出しにするわけにはいかない。俺は赤坂くんにそっと笑いかけた。 「そうだったんだね。何となくそんな気がしてたよ」 それは、嘘ではない。初めから2人は仲がいいな、なんて思っていたから。認めたくなくても、認めざるを得ない。いざ目の当たりにすると、どうしても寂しさが押し寄せてくるんだ。 だけど、俺は大人だ。彼を責めたり引き止めたりなんてしない。そんなことしたくない。今俺にできるのは、彼の味方でいること……。 「先生……気づいていたんですね」 「確証はなかったよ。今言われて、ああやっぱりそうなんだって」 「な、何だか恥ずかしいですね」 「でも俺に教えてくれてありがとう」 「いえっ、俺の方こそこんな話を聞いてくださってありがとうございます。……俺、この絵が返ってくるって聞いて思ったんです。こいつにこれを渡して、それで……告白しようって」 「うん。上手くいけるよう俺も願ってる。すごくよく描けてるから、彼も喜んでくれるはずだよ」 「だと嬉しいんですけどね。玉砕したら先生慰めてください」 「ははっ、それは盛大に励まさないといけないね」 俺が笑うと、やっと赤坂くんも笑ってくれた。温かい笑顔で、今までで1番遠いものだった。 そうか。これで終わりなんだ。初めから教師と生徒の恋なんて叶わないってわかっていた。恋の終わりを告げる鐘が鳴る。きっと悲しい気持ちはしばらくは癒えないけれど、もう彼への想いで葛藤する必要はない。彼には“彼”がいるから。寂しいけど同時にほっとした。暖かな恋ができてよかった。儚くも優しい日々だった。彼との毎日は本当に輝いていて、俺にとっての宝物だから……。 君の隣で見た景色は、どんなに描いても描けないほど綺麗なもので、空っぽだった俺を満たしてくれたね。 赤坂くん。好きでいさせてくれてありがとう。 ただ遠くから彼らの幸せを祈っている。 これからも教師として、よき理解者になれるようそっと見守っているよ。 俺はいつまでも、その透き通った瞳を見つめていた。
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