ありがとう(黄崎 side)

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ありがとう(黄崎 side)

オレは放課後に、教室で赤坂を待っていた。珍しくあいつから誘ってきたんだ。「今日の放課後、空いてないか?」って。今日はたまたま部活もないからOKしてやった。 だというのに、あのヤローは「放課後に一瞬美術室に用事があるから、少し遅くなるかも」とも言いやがった。こっちだって忙しいのになんて勝手なやつだと思ったが、オレもしょっちゅう勉強を教えてもらっているし、日程もかなり調整してくれていた。だから今日は仕方なく待ってやることにした。 あいつから誘ってくるなんて、一体何の話だろう?こういうのって、告白フラグか何かの相談か……。バレンタインの時にあいつが言っていた「好きなやつ」のことが離れない。まさか…………。 放課後になってしばらく席でスマホをいじっていると、赤坂が帰ってきた。 「ごめん!遅くなった」 「人を待たせといて遅せぇよアホ!」 「だからごめんって!でも待っててくれてありがとう」 赤坂は若干呼吸を乱しながら笑った。たぶん、急いで教室に戻ってきたんだろうな。まあこいつらしいとは思う。手には何やら額縁を持っている。美術室での用事ってのはそれかもしれない。 「それをもらいに美術室に行ってたのか?」 「ん?あ、そうそう。やっと返ってくるって聞いて慌てて取りに行ったんだ」 そう言って赤坂は額縁の絵をこちらに向けてきた。それはきっと……あの展覧会の時の絵だ。忘れもしない、あいつが描いた絵…………。 ゆっくりとオレに近づき、立ち止まった。そしてやつは、真面目な顔でオレを真っ直ぐに見つめた。 「黄崎。お前に聞いて欲しいことがあるんだ」 「あ?何だ?」 心拍数が尋常じゃないくらい跳ね上がる。それを隠すようにまたぶっきらぼうな反応をしてしまう。 その眼鏡の奥にある瞳が、どこもよそ見せずオレを映している。この先に待ち受ける言葉が怖い……けど、逃げたくない。手を強く握りしめ、ただひたすら赤坂の口から放たれる言葉を待ち受けた。 オレと黙って見つめ合った後、赤坂は薄い赤色の唇をそっと開いた。 「俺さ、こいつのことが好きなんだ」 その絵を大切に抱えて、赤坂はそう言う。額縁の中では、オレじゃないやつが微笑んでいる。シンプルに、でも色鮮やかに描かれている。誰もが惹き付けられるような笑みで……。
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