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一瞬、何が起きたかわからなくなる。心の奥が痛い。殴られたわけでも蹴られたわけでもないのに、立っていられないほど苦しい…………。
冗談だろ?って笑ってやりたい。でも、こいつのこの表情は決してからかってはいけないほど真剣なものだった。
「この前、好きな人がいるって言ったじゃん?いつ告白しようかとか、どんなふうに伝えようとか全然考えられてなかったんだけど、何日か前に橙堂先生からこの絵を返すって言われて……そうだ、この絵をあいつに渡そう。そして、好きだと伝えようって……そう思ったんだ」
赤坂はオレじゃない“あいつ”を想っている。あの展覧会の時もきっと……。一度オレの絵を描いてくれたことがあったけど、展覧会に飾ったのは“あいつ”のものだった。どうせたまたまだろうって深く考えないようにしてた。でも……こいつはあの時から……。
……何を黙っているんだオレは。さっさと何か言わないと赤坂も困るだろ。別にいいじゃねぇか、赤坂が誰を好こうが。しかも相手は“あいつ”なんだから、オレは喜ぶべきだ。オレは緊張して固まっている赤坂に笑いかけた。
「ふんっ、鈍感なお前がまさかついに行動に出るとはな」
「あっ、ま、まあ、そろそろ言わなきゃなって思って」
「で、いつ告白するんだ?」
「えっと、今月のどこかとか?近いうちにできたらいいとは思ってるんだけど……」
「はぁ!?お前いつまでグズってるんだよ。決めたならさっさと行けよ!」
声を荒らげると、赤坂の身体がビクッと動いた。やつの肩を強く掴み、オレは言葉を勢いに任せた。
「好きなんだろ?だったら早く言ってやれよ!怖がってんじゃねぇ、男は度胸だよ!」
「黄崎…………っ」
「……あいつはたぶん、別館2階の空き教室にいるはずだ。昼休みとか放課後によく1人でいるらしい。今もいると思う」
力のまま、赤坂に語りかける。自分の感情全てをひた隠しにして、ただ必死に。
少し沈黙が流れた後、やがて赤坂はゆっくりと口角を上げた。
「……そうだな。うじうじしてても始まらないもんな。俺、今からあいつのところに行ってくるよ」
「おう。ちゃんと想いぶつけて来いよ?」
「うん。黄崎、色々話聞いてくれてありがとう。すごく励みになったよ」
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