203人が本棚に入れています
本棚に追加
/373ページ
目の前で赤坂がそう笑う。悔しいくらい穏やかで優しい笑み。ずっと見ていると何かが込み上げてくる。だけどオレは最後まで見届けてやるんだ。手を肩から離すと、オレは赤坂に向かって拳を突き出した。
「お前なら上手くいくって信じてる。だから全力で行け。オレは、お前の親友だ」
オレの言葉に一瞬きょとんとしたが、すぐに静かに微笑んで拳を突き返した。
「ありがとう、親友」
赤坂は再び絵を抱えてオレに背を向けた。そして背筋を伸ばして教室から去っていった。
1人取り残されたこの空間。別に1人なんて慣れてるけど、今日は特別寂しい気持ちが溢れる。
赤坂が自分の恋心に気づいて、告白すると決めた。それは親友として喜ばしいことだ。2人は幸せになるだろう。それでいい。オレには関係のないこと。
……なのに、目から溢れるこの粒は何だって言うんだ?何が悲しいんだ?オレには親友もいて、たくさんの友人もいる。部活もやってて毎日充実している。これ以上何を望むって…………?
「……っ、赤坂…………」
名前を呟く。何の返事もない。赤坂の隣にいるのは、もう別のやつなんだ…………。
「……うっ、赤坂っ、赤坂ぁ…………!」
身体が支えきれず、しゃがみこんでしまう。何だよこの気持ち……こんな痛み、今までに感じたことねぇのに…………。
しばらく頭の中がぐちゃぐちゃになり、人知れずオレはガキのように泣きじゃくっていた。
今、やっと気づいた。やっと素直な気持ちになれた。でももう遅い。赤坂はもうそばにいない。
もっと早く素直になっていればよかった?そしたら、オレはあいつの横にいられた?
……いや、そんなの後の祭り。言い訳にすぎない。赤坂が選んだのは“あいつ”。ただそれだけのことなんだ。
正直、悔しいよ。けどなぜかこれでよかったとも思える。もしこの経験がなかったら、オレは今でも意地っ張りでわがままで孤独な男だっただろう。
鞄の中にあるあのノートを出そうとして、その手を引っ込めた。そうだ、赤坂との恋が終わったんだ。もうオレにはポエムはいらない。だって、素直になれたのだから。ノートがなくてもちゃんと言えるから……。
ありがとう、赤坂。
お前のおかげで、知らない世界をたくさん見られた。色んな夢を見られた。
いつも素直じゃなくて傷つけてしまったけど、笑って許してくれたよな。
今はまだ悔しいし辛いけど、お前と“あいつ”が幸せならそれでいい。“あいつ”はきっと、お前を幸せにしてくれるから。
「大好きだったよ、弓弦」
安心したように、オレは1人で笑った。夕日が差し込む教室で、ようやく本当の気持ちを言えた。
最初のコメントを投稿しよう!