202人が本棚に入れています
本棚に追加
/373ページ
黒井は動揺したように声を漏らした。あまりに唐突だったからだろう。先生からこの絵が返るって聞いて、俺は決意したんだ。これを黒井に渡す。そして、想いを伝えるって……。
「夏に俺と黒井と黄崎の3人で海に行ったこと、覚えてるか?」
「うん、覚えてる」
「その時にさ、色んな絵を描いたんだ。海とか周辺の風景。黄崎。そしてお前。たくさん描いた中で、自分で1番しっくり来たのがお前の絵だったんだ」
展覧会に出す絵を描くために、たくさん絵を描いた。その中で自然と筆が乗ったのが、黒井の絵だった。綺麗で儚い印象が壊れないように、あまり派手な色は使わず繊細に。でも色鮮やかに。もちろん、目の前にいる本物の黒井には到底敵わないけど、自分が納得のいった絵だった。
展覧会や他の行事で飾られているのは、ちょっぴり恥ずかしいけど嬉しかった。やっと思い描いたものに近づけたから。そして……絵の中の黒井の笑顔を見ていると、胸に込み上げてくるものがあったんだ。
きっと……好きだから。上手く描こうと意識しなくても、自然に描くことができたんだと思う。夏の太陽にさえ負けない眩しい笑顔を、ずっと見ていたい。そう思った。
「ありがとう。僕を描いてくれて、すごく嬉しかった。こんなに綺麗に描いてくれた絵、本当にもらってもいいの?」
「当たり前だよ。俺からのプレゼント」
黒井はゆっくりと微笑んで絵を受け取ってくれた。その笑顔にまた惹かれていく。一緒にいるだけで、どんどんその魅力に惹き込まれる。絵で描くだけじゃ物足りない、触れたくて、言葉を届けたくて……。
加速する心拍数を抑えるように、俺はまた呼吸を整えた。そして黒井の姿を焼き付けた。
「この前2人で一緒に帰った時、好きな人がいるって言ったと思うんだけど……。俺、鈍感で恋愛経験も全然なかったから、最初は自分の気持ちに気づいてなくて。でも、冬にあった演劇発表会で主役になって、ラストシーンで誰を選ぶか決めたじゃん?あれ……本番ではぐだぐだになっちゃったけど、実はお前を選んでたんだよ」
「僕を…………?ほ、本当に……?」
「うん。色々考えて決めたんだけど、最後はお前がいいって思ったんだ。お前と結ばれるのが……劇だけじゃなくて現実になればいいのに、なんて思ったりして……」
最初のコメントを投稿しよう!