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すると、目の前にあったのは黒井の背中ではなかった。暗闇の中で、黒々と輝く瞳を俺に向ける黒井。か細い体は今にも消えてしまいそうなくらいだ。
中途半端な距離で見つめ合う俺達。離れた2人の心の距離が、今近づこうとしている。
予想外の黒井の姿に、心臓が大きく跳ねた。まるで時間が止まっているような気がした。
固まって動けないままでいると、黒井の小さな唇がそっと開いた。
「赤坂くんが眼鏡外したところ、初めて見た。何だか新鮮だね」
「ま、まあな……。俺だって黒井のそんな姿、初めて見るし……」
「学校じゃ見せないもんね」
そう言って黒井は唇の端をゆっくりと上げた。内緒話をしている時のような、ひっそりとした黒井の笑み。いつもの笑顔とは違って体がぞくっとした。きっと見た誰もが惹き付けられる、妖艶なものだった。遠くて近い場所にいる黒井に、手を伸ばせば届く気がした。
「僕、赤坂くんのこともっと知りたい。教えてよ……」
2人の壁は取り壊された。水晶のような瞳に吸い込まれ、俺と黒井の心は今重なり合った。
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