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「ま、待って、くろい……んっ」
抵抗する間もなく、黒井の唇が俺の唇に重ねられた。生暖かくて柔らかい感触がくすぐったい。お互いの呼吸が荒くなり、苦しいのにもっと求めてしまう。ふかふかのベッドと黒井に挟まれ、どうしようもなく心地よい感情が込み上げる。熱を帯びたこの想いはとどまることを知らない。
「あっ、黒井、そこはっ」
「赤坂くん、僕、もう待てない……」
黒井の細い指で体をまさぐられる。男なのに、クラスメイトなのに……。でも正直に反応してしまう。情けない喘ぎ声が部屋に響く。
「可愛い声」
これまでになく妖しい表情を浮かべると、黒井はまた俺の口を覆った。隙間から舌が入り込み、熱く激しく絡み合う。ああ、俺もこいつもこんなにも求めていたのか……。抑えていた感情が爆発し、完全に理性を失っていた。
***
……って、何考えてんだ俺は!?!?落ち着け俺!!そんなわけないだろ!!あ、あれだろ?黒井は単純に俺のことが知りたいってだけで……。
目の前には必死にお願いする子供のような表情の黒井。……ったく、そんな顔されたら変な妄想しちまうだろ……。大体、こいつは男なんだ、そ、そんな展開があるはずない……。
「……あ、あのっ、俺も黒井と今まで話したことなかったし、その、色々、知りたい、かな……」
「ホント!?嬉しいっ!!」
より距離を詰める黒井。おいっ、近いって!いやいかん、平然を装うんだ、俺……!
とにかく何か当たり障りない話を……そうだな……てか、ホントに俺こいつのことほとんど知らないな。クラスの大人しいやつってポジションだよな、黒井って。俺とあんま変わらないじゃん。あ、でも中性的な顔立ちしてるし、実は裏では結構モテてる?
「えと、黒井ってさ、下の名前なんだっけ?」
「涼音だよ!涼しい音って書いて、りおん」
へぇー、そんな変わった名前だったのか。これまた中性的な名前だな。でもこの顔立ちにぴったりの名前だ。
「俺の下の名前とか、覚えてないよな?」
「弓弦、でしょ?弓に弦で、ゆづる」
心臓が跳ね上がった。俺の名前、ちゃんと覚えてくれてるんだ……。ちょっと感動した。俺は影が薄いから下の名前どころか苗字すらよく間違えられたり忘れられたりする。自分でも忘れるくらいなのに。
「うわ、よく知ってるな。しかも漢字まで」
「知ってるよー」
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