修学旅行(赤坂 side)

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「俺、存在薄すぎて周りからも忘れられてるからさ」 「それは周りがだめなんだよ。僕はちゃんと知ってるもん」 そう言って黒井は微笑んだ。何だかな、いつもと同じような表情だと思うけど、ベッドの上だとくすぐったく感じる。これは黒井ファンの女子が喜びそうだな。 「赤坂くんは今日の遊園地、どこ回ってたの?」 「えっと、俺あんまテーマパーク的なとこ得意じゃなくてさ……。ベンチでスマホ触ってるか、たまに友達とだべってるか。あと、観覧車が好きなアニメとコラボしてたから乗ってみた。男が観覧車ってちょっとむさ苦しいけどな」 と自嘲してみる。うわ、こいつオタクの陰キャって思われたかな。けど、黒井は笑顔を絶やさない。 「そっか。僕も人が多いところとか苦手だから、静かな場所で本を読んだりしてたよ。夢のような場所で夢のないことしてるけど」 「はは、それは俺も同じだ。それに俺、絶叫系乗れないんだ。今日も無理やり連れて行かれて1回だけ乗ってしまったけど……死んだわ」 「えーっ!そんなの赤坂くんが可哀想だよ。苦手なものを強制するなんて」 黒井は頬を膨らませた。他人のことなのに親身になって話を聞いてくれる。周りは俺が怖がってるのを見て楽しんでたけど、こいつは他のやつらとはどこか違う。何だか嬉しかった。 どうやら俺達は似たような考えをしているらしい。知らなかった黒井の素性が、少しずつ露わになっていく。 「あの、赤坂くん」 「赤坂、でいいよ」 「あっ、赤坂!」 距離を少し縮めたくて提案すると、少し恥ずかしそうに俺を呼び捨てする黒井。乙女かお前は。頬を赤くさせた姿がこれまた綺麗だ。 「赤坂!赤坂!」 「……ん?」 「赤坂って、去年僕と話したこと覚えてないの?」 えっ?俺お前と以前に話したことあったっけ?今日が初会話だと思っていた。というか、何回も俺の名前を呼ばれると恥ずかしいな。 「わ、悪い、今日が初めてだと思ってた。いつ話した?」 「実は入学式の時に話したんだよ?」 「入学式……やばい全然思い出せんぞ。ごめんな、俺よく忘れっぽいって言われるんだ」 「いいよ。1年前の話だしね」 申し訳ないな、黒井。モテるやつはちゃんと昔のことも覚えてるんだろうけど、俺は気も利かないし記憶力もない。一時期友達に認知症ってあだ名を付けられたくらいだ。
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