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しばらくの間他愛もない会話をしていた。修学旅行の話から普段の学校の話。黒井は意外と話しやすいやつだった。
「そういや黒井って部活入ってるの?」
「ううん。帰宅部だよ」
そうなんだ、こいつ帰宅部なのか。確かにあまり部活に熱中しているイメージはない。入ってても文芸部っぽい感じがするけど、そもそも入ってないらしい。
「へー、帰宅部か」
「うん。僕、あんまり好きなこととか趣味とかなくて」
「そうか。俺も趣味とか大してなくてさ。一応美術部入ってるけど、幽霊部員だからほぼ帰宅部だしな」
黒井と俺は少し似ているのかもしれない。俺もこれといった趣味や特技がない。美術部も勧誘されたから何となく入っただけで、別に帰宅部でもよかった。
「なんか、さ。俺達ちょっと似てるよな」
「に、似てる?」
「うん。比較的大人しい方だし、なんか、物の考え方とか似てそうな気がする」
俺がそう話すと黒井は無邪気に笑った。
「そ、そうかな。だと嬉しい」
「嬉しいか?俺に似ても得なんてないぞ。あっ、でも俺お前みたいに綺麗な顔してないし、そこは違うか……」
「きっ、綺麗だなんてそんな……。逆に僕は誰とでも分け隔てなく話せる赤坂がすごいなって思うよ。僕、かなり人見知りだから」
「いや、俺大して人と話してねぇよ。引っ込み思案だし面倒臭がり屋だしさ。でも、結構性格似てるからさ、なんか話しやすいな。こんなに会話が続くし」
素直な気持ちを伝えると、黒井は目を丸くした後またはにかんだ。
「えへへ、嬉しい。僕も赤坂とずっと話したかったから、こうやってお喋りできて楽しい」
顔いっぱいに喜びを浮かべる黒井。……ったく、可愛い表情するなよ。そんな顔されたら、思わず抱き締めたくなるじゃねぇかよ。頭を撫でたくなり反射的に出た手を俺はなんとか戻した。
それから俺は黒井とたくさん話した。高校の話、中学の時の話……。基本的に俺の話を聞いてもらうばかりだったけど、黒井は嫌な顔ひとつせず聞いてくれた。大体のやつらは少し話しただけですぐスマホタイムになってしまうのにな。
気がつけばもう夜中の3時になっていた。まさかこんな時間まで話していたなんて。
「やべっ、もうこんな時間か。集合までまだ時間あるし、少しだけ寝ようか。悪かったな、遅くまで付き合ってもらって」
「ううん。こちらこそありがとう、いっぱい話せてよかった」
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