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パサリと豪華な羽根の扇子を広げた。
この目も当てられないこの状況を目の当たりにするとストレスが溜まりそうである。
(さっさと帰りましょう……私の楽園へ)
国に帰っても文句を言われる筋合いはない。
むしろ、言える訳がないのだ。
今まで何の反応も示さないリリアーナは、ナシールにとってはどうでもいい存在だ。
それは周知の事実だったし、今まで黙認されていた。
突然、変わる態度に戸惑うのも無理はないだろう。
ナシールとチェリーが目の前で何をしようとも、リリアーナは何も言わなかった。
それは二人が見ていて余りにも馬鹿な事ばかりするので面白かったからに過ぎない。
これだけ周囲は焦っているのに、二人はリリアーナが婚約を破棄したお陰で結ばれることが出来ると大喜びである。
「これでチェリーと幸せになれるな!」
「はい、嬉しいですっ」
まるで、そこだけ異世界である。
「ナシール殿下……!リリアーナ殿下が居なければこの国はッ」
ダンテが必死に訴えかけているが後の祭りだった。
嬉しそうにしているところ、大変申し訳ないが待ち受けているのは恐らく経験したことのない地獄だろう。
「……直ぐに手続きを行って頂戴。お父様にも連絡して」
「かしこまりました、殿下!直ぐに手配致しますわ」
侍女達はとても嬉しそうに頷いた。
ナシールとチェリーのリリアーナに対する対応が心底気に入らなかった侍女達は、いつも文句を言っていた。
ベルベット皇国でのリリアーナとの扱いとは雲泥の差だからだ。
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